shall we dance?2

 おそらく私以外の女の子なら恐怖に竦んでいたかもしれませんが、私からしたら17歳が怒ることなど怖くもありません。


 「何を怒っているのか知りませんが、貴方には好きな人がいるのでしょう?優勝してからアピールするといっていましたが、ダンスパーティくらい誘ったらいかがですか?」
 

 私がそう提案するとセドリックは冷たい目で私を見てきました。

 相当にご立腹なようです。

 私を誘うつもりが無かった癖に、私が誘いを断るというのを聞いて怒るのは理不尽だと思います。


 「そうしたかったんだけどね」

 「ならそうすれば良いじゃないですか。貴方なら誰でもOKして下さるでしょう?」

 「誰でも?君は誘いを断ったのに?」

 「そうですね。訂正します。私以外で且つ、相手が決まっていない人なら誰でもです」


 チョウを誘うつもりなのであり得ない仮定でしょうが、たとえセドリックが私にパートナーを申し込んだとしても、私は参加などする気もありません。


 ただでさえダンスなど面倒ですし、女性からの視線や嫌がらせも増えるでしょう。

 それにセドリックは代表選手でもあるので人が見る前で踊らなくてはなりませんし、ダンブルドアに勘違いされて第二試験で人質に使われるのも嫌です。

 私からしたらセドリックの誘いにのるなどマイナスしかありません。


 「僕が誘いたかったのは君なんだけど」

 「私はもう相手がいるのでムリです」


 私もイライラしながら断ると、セドリックは私の顔の横の壁にに両手を置きました。

 そうすると私は壁とセドリックに挟まれた形になります。


 「いつもそうだね。…必死で追いかけても君は蜃気楼のように掴めない。そうすれば嫌われるって分かっていても、いっそ衝動に任せたくなるよ」


 セドリックが私を睨み、至近距離で低くそう囁くので。

 私は苛ついて杖をとり彼に石化魔法をかけようとしましたが、その前に第三者の声がわって入りました。


 「邪魔をして申し訳無いが。ミリア、そろそろ授業の教室へ向かわないと遅れるぞ」


 その声はスチュワートでした。

 セドリックに壁に挟まれたまま横を見ると、分厚い瓶底めがねをかけたスチュワートが図書室に置いてあった私の授業用カバンを持って立っていました。

 どうやら気を使って教えてくださりにここまで来てくれたようです。


 「バックス……」


 いつもより格段に低い声でセドリックはスチュワートのファミリーネームを呟きました。


 「もうそんな時間ですか」

 「ああ。ディゴリー、君も授業があるだろう。急いだほうが良いんじゃないのか?」

 「ご忠告ありがとう、バックス」


 感謝などしてはいないといった口ぶりでセドリックは言うと、私の横から手を退けました。

 いまだに彼の表情はよろしくありません。
 むしろスチュワートが来てより不機嫌さを露わにしています。


 「セドリック」

 「・・・・なんだい、ミリア?」


 スチュワートのもとへ向かう前に。
 私はイライラはおさまっていませんでしたが、思い出してセドリックに声をかけました。


 「言うのが遅くなりましたが、第一課題のクリアおめでとうございます。」

 「………ありがとう、ミリア」

 「いえ。それでは、私は行きます」


 その言葉以降黙ったまま、私を見つめて苦しそうな顔をするセドリックに再び背を向けて、私はスチュワートからカバンを受け取ると次の授業である薬草学の教室に向かいました。



 ……原作にあるので心配は要らないでしょうが。

 あれだけ課題を頑張っていたのですし、セドリックがチョウと上手くいけば良いと少しだけ柄にも無く考えてしまった私の思考に嫌気が差しました。


 「ところでもっと早くに声をかけて下さっても良かったんじゃないですか、スチュワート?」

 「これでも空気を読んだ結果だ」


 スチュワートが私のカバンを持ってきてくれたと言うことは、私とセドリックが話しているのを見かけて、一度図書室に行ってから戻ってきたということでしょう。

 そう思い言ったつもりですが、彼の言葉からするとそれだけではなくあの現場を観察していたようです。


 まあ、基本人の事に関わらないスチュワートが私のカバンを持ってきただけでも非常に珍しく有り難いことですが。


 「とりあえず、ありがとうございます。スチュワート」

 「いや、礼はいらない」


 それからお互い何も話すことなく教室へと向かいました。

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