train2

 荷物を端に寄せ終わると、私はスチュワートと向かい合うように椅子に座り、カバンから今年の教科書を取り出しました。


 学校に着くまでには時間があるので暇つぶしのためです。
 同級生が前に座っているのに、何も会話もしないで本を読み始めるなんて失礼ではないかと思う人もいるかもしれませんが。そんな心配は無用です。

 少し斜め前にいるスチュワートを見ると、彼はすでに持参した黒く厚い本を読みはじめていました。おそらく魔法薬学関連の本かと思います。
 この通り、お互い話に花を咲かせるような性質では無いのです。


 列車が走り出してしばらく時間が経ちました。
 乗り物に乗りながら長い間本を読むと酔うので、私は時々区切りの良いところで読むのを止めて、真横にある窓から外を見ました。外はもう夕闇に包まれています。
 おそらくもうそろそろホグワーツに着くことでしょう。


 ・・・少しだけ、屋敷に帰りたくなりました。


 「ミリア。」


 外を眺めていると、前から私の名前を呼ばれました。
 見なくても、ここには私とスチュワートしか居ないので彼だとわかります。


 「何でしょう?」


 私は窓からスチュワートの方に視線を戻しますと、彼は膝に今年の魔法薬学の教科書を置いて私の方を見ていました。


 「今年のクリスマスのダンスパーティに、一緒に参加してくれないか?」

 「え?」


 その言葉に私は少なからず驚いて目を見開いてしまいました。


 「貴方が、何かの行事に参加するなんて珍しいですね。」


 彼、そして私も今までハロウィンパーティーやクリスマスパーティなどの行事には参加していませんでした。クリスマスパーティーに関しましては、お互いいつも家に帰っている為です。


 私は今年の、『炎のゴブレット』の年のクリスマスダンスパーティーは強制参加のように思っていましたが、過去の情報を調べましたら実際は参加したくない人は参加しなくても構わないようでした。

 ・・・まあ、ドレスローブを用意できないという事情や、家に帰らないといけないという事情の有る人もいるでしょうし。
強制ってことは無いですよね。


 私は参加しなくても良いイベントでしたら、参加する気はありませんでした。それは今年のクリスマスもしかりです。


 念のために言っておきますが、ドレスが用意できなかった訳ではありませんよ。





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