夜道事件 後
次の日にポアロに行くと、シフトで知ってはいましたが、安室さんがいました。
誰もいない裏方で安室さんは私を見てニコリと頬笑むと。
「ありがとうございます。いなくならないでくれて」
と言いました。一瞬だけ怯みましたが、気を取り直して安室さんに向き合います。
「安室さん、話したい事がありまして仕事が終わった後に私の家に来ませんか?予定があるのでしたら断って下さって構いませんが」
私は安室さんを初めて自分から誘いますと、安室さんは演技でしょう驚いた顔をした後に嬉しそうな表情で「ミリアから誘って貰えて嬉いです。もちろんお邪魔させて貰えますか」と返事を下さいました。
そして、仕事が終わり私と安室さんは私の家へと別々に帰宅しました。別々な理由は私にとって安室さんのファンに見られないようにするため、安室にとっては公安で潜入捜査中ということでの念のためでしょう。私から提案して安室さんはすぐに頷いて下さいました。
私は家に来た安室さんを以前のようにソファーへ座らせて、お茶を用意しました。
安室さんは「ありがとうございます」と警戒せずにお茶を啜りました。本当に飲んでいるのかは何も入れてはいないので分かりませんが。
「それで話とは何でしょうか」
紅茶を一口飲むと安室さんは隣に座る私へと優しくなんでもないように、けれどまっすぐに見て尋ねました。
「昨日はあれから大丈夫でしたか?」
私はそれに質問で返しました。
彼は少しだけ間を開けて答えました。
「ええ、貴女のおかげで」
「そうでしたか。それでしたら良かったです」
「あれはミリアさん、貴女なのだと話してくれるのですか」
「そうですね。あれは私です」
私は淡々と彼の質問に答えました
。私は昨日悩みましたが。
「貴女は何者ですか」
「私は魔女です」
正体を話すことにしました。
本来ならば身内でない非魔法族に魔法使いであることを知られてはいけません。
けれどこれからもこの米花町で過ごすのでしたら、彼に下手に知られているよりは良いかと判断しました。聡い彼でしたらすぐに、もうすでにかもしれませんが私の正体に気がつくかもしれませんし。
安室さんは私が魔女だと告白すると青い瞳の目を見開きました。
「本当に君は魔女だったのか」
「ええ」
「けれど今まで隠していたのに何故教えてくれたんだ」
普通でしたら魔女だという証などを要求するところでしょうがそんなことはなく安室さんはすぐに受け入れました。必要がないくらいに確信しているのでしょう。
「教えたのは、安室さん私が魔女だと隠していて貰うためです。私は安室さんに魔女だと知られてしまいましたら掟で安室さんの記憶を消して安室さんのいる場所から去らなくてはなりません。貴方は忘却の魔法がかかりにくいので。それは困りますので、いけない事ですが隠していて欲しいのです」
「もし僕が知っていると知られてしまったら?」
「そしたら私は罰を受けるでしょうし、安室さんはこの事を忘れるでしょうね」
「なるほど、そうですか。」
安室さんには言いませんが、もし次に彼に忘却呪文をかけるのならより強力にかける必要があります。
忘却呪文は強ければ強いほど忘れっぽくなったりする副作用もあるので安室さんにかけたくないと言うのも一つの理由です。
安室さんは思案した後に一つ頷きました。
「分かりました。ミリアさんが望むのでしたら決してこのことを誰にも言わないと約束します」
「ありがとうございます」
「いや、こちらこそ話してくれてありがとうございます。……それで一つ聞いても良いですか」
安室さんは言いました。
私は首を傾げて頷きました。
「はい、答えられることでしたら」
「僕は以前君と会ったことがありましたか。ポアロで会った時に初めて会った気がしませんでしたし。僕は忘却の魔法?ですかそれにかかりにくいと貴女が知っているということは以前に僕にかけたことがあるからじゃないですか?」
確かにポアロで会う前に私は安室さんとイギリスで会った事がありました。そして忘却呪文をかけたことも。
ポアロで出会った時から魔法に耐性があったのですね。
「ええ、イギリスで」
「やはり。もしよければそれを思い出させてくれませんか」
「まあ、そうですね。構いません」
私は杖を取り出して、安室さんの頭へと杖先を向け忘却術を解きました。
すると安室さんは少しぼうっとした顔になり、顔を歪ませると、私を見つめてから抱きしめました。
「あの……安室、さん?」
「この時も僕は君に助けられていたんですね」
「ありがとうございます」とそう耳もとで言われて、恥ずかしくなりました。私自身は別に自分の身は自分で守れるのにと思っていた記憶でしかありませんでしたが。
感謝されると複雑な気持ちになります。
こうして私は安室さんに魔女だと知られました。
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