白雪の行方3

 私が事件に巻き込まれて、大量に出血したために気を失ってから一月が経ちました。

 どうやら私は3ヶ月間眠っていたそうです。

 もし私がただの人間でしたら危ないと言いますか、死んでいたレベルの怪我でした。

 私が助かったのは夜に病院へ忍びこんだ魔法使いの医者、魔法世界では癒者と呼ばれるものですが、彼らのお陰で助かりました。
 とはいえその魔法薬の副作用で長期間眠ることを強いられてしまいましたが、仕方がないでしょう。

 今回は学校側の責任もあるとして単位は補修か、あるいはすぐに復帰できずとその年分の学費は保証するとのことなので問題はありません。

 ただ、医者には相当驚かれましたが。このまま植物人間になるとの診断をされていたみたいですし。
 奇跡だとも言われました。

 ですから見舞いに来た学友達に「死んじゃうかと思った」とすごく泣かれ、しもべ妖精のテールには起きると知っていた筈なのにおいおいと号泣され、ホグワーツの男友達であるスチュワートからはお見舞いのフルーツのお菓子が送られてきました。警察の人には何があったのかと事情を聞かれましたがほとんど覚えていないことにしました。
 下手に言うのも面倒くさいですし。
 ちなみにテロリストの記憶は我武者羅な私にやられたと魔法で操作してあるとのことでした。寝ていたので文句は言えませんでしたが、もっと別の記憶にしてほしかったです。


 そして私と同じように事件に巻き込まれた沖矢さんも知ってから慌てて来てくれたのでしょうね、息を切らしてお見舞いに来て下さいました。
 沖矢さんは私がベッドへ座っているのを見ますと私へ近寄りぎゅっと痛いくらいに抱きしめました。

 痛いですが、それだけ私の事を心配していたのでしょう。
 申し訳なく思います。

 「君が、生きてて良かった。もう目覚めないかと思った」

 目を覚ます前といつもの敬語のない口調でそう言いました。それに内心驚きながらも私は申し訳なく思いました。

 「心配をかけてしまい申し訳ございません。沖矢さんが無事で良かったです」

 彼はただの学生です。
 もし私が魔法使いでなければ彼も私も命は無かったでしょう。

 生きていて良かったです。

 私がそう伝えると彼は何故か熱が冷めたように拘束を解きました。

 そして私を正面にしてどこか苦しそうに見つめました。

 「君は……貴方はあの時と同じ言葉を言うんですね」

 「あの時?」

 私は同じことを言った記憶がないので首を傾げますと、沖矢さんは首を横に振りました。

 「覚えていないのなら構いません。けど、僕は貴方にあのような危険な真似をしないで欲しかった。警察からも聞かれているでしょうがあの事件の時は何があったのですか?」

 「すいません。それはあまり覚えていません。ただ必死でしたのは覚えていますが」

 「貴方は武道の経験でも?」

 「いいえ、ありません。テロリストを二人倒せたのはただの火事場の馬鹿力だったのでしょうね」

 私は予め用意していた話をします。

 この説明の通りでしたらとても無茶な行動でしたので警察にも注意されました。
 ただの一般人、しかも女が武器を持つ大人の男へ立ち向かうなど無謀なことです。
 きっと沖矢さんも怒ると思いましたが、沖矢さんはただ苦し気に無言で見つめてくるだけでした。




 それからというもの、沖矢さんは入院中はたまにお見舞いに来てくださり、退院後も以前よりは頻繁に会うようになりました。

 そこから友人には付き合っているのかと聞かれましたが、もちろんそんなことはありません。


 そして、退院した時期から一人の男がたまに外を歩く私の後を付けてくるようになりました。癖のある黒髪に目の下に隈のある男です。

 相当手慣れた尾行なので普通の人ならば気が付かなかったでしょう。
 私もテールがいなければ気が付くことはありませんでした。

 テールはすぐにでもストーカーを排除しようとしていましたが、私はそれを止め男の正体を確かめて貰いましたら、彼は沖矢さんでした。

 しかも、沖矢さんの方が変装だったようです。黒い男の人の方が本物です。

 それを知り初めは意味が分かりませんでした。
 けれどストーカーだとしても良い人だとは思いますし、一緒によくする料理の話も嫌いではありませんし。
 お互いに料理の差し入れをすることも嫌いではありませんし。
 何をしてくる訳でもありませんから様子を見ることにしました。

 彼が悪い人だとは思えませんでした。

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