backyard1
(安室視点)
はじめてポアロで働くことになりはじめてそこで働く彼女と会ったとき僕は彼女に会ったのがはじめてではないと感じた。
イギリス人というミリアは日本の大学へ留学するために今回初めて来日したと言う。
けれどその割には日本語は堪能で日本に関する知識も多かった。確かに初来日というのは調べさせてもらって嘘ではないと分かったけれど、それでも僕は彼女の知識の偏りに違和感があった。
日本の文化や地域に詳しい割に、細かな知識…例えばこの米花町についてなど、もし留学をするために学ぼうとするなら優先される知識などを知らないことが多々あった。
まるであり得ないことだけどもともと日本を知ってはいたけれど時代が違う、あるいは知っている日本とは異なるところから来たようなそんな違和感がある。
それと共に僕は冒頭の通りにミリアに見覚えがある気がした。
僕は記憶力には少し自信があるからもし彼女と会ったことがあるのなら覚えているはずだ。もしかしたらイギリスには何度か行ったことがあるからそこで視界の端に見ただけなのかもしれない。
けれどフラッシュバックするように思い出す記憶はまるで抱き込むように距離の近い彼女で、それと共に守らなければという思いが甦った。もし本当にそんな光景を見たことがあるのなら忘れないはずだ。けれどそれが夢というには鮮明すぎた。
貴方は何者なのか。
はじめて会った時に僕はミリアに会ったことがないかと尋ねたけれど、彼女は考える素振りを見せずに僕と会ったのははじめてだと言った。
けれど彼女を観察していて、それが不自然だと思った。
ミリアはクールなようでいて優しい人だ。
会ったことがないかと聞かれたら素性の知れない人でない限り自分の記憶を探る人だ。
そんな彼女が僕の質問に知らないと即答した。
そこから考えておそらくミリアは何か心当たりがあるのではないかと思う。それが何かは分からないが。
それを探りたいと思い僕は彼女を注意して見ていた。
けれど観察をしていてもミリアの素行には特に怪しいものはない。
強いて言うのならやけに事件に巻き込まれるということか。爆弾事件に巻き込まれたり、バスジャックに巻き込まれたり、怪しい人に後をつけられていたり。
ミリアが事件に巻き込まれ危険が及ぶ度に僕は他の子にはない彼女を守らなければいけないという過去のものであろう義務感に襲われた。彼女の前では冷静さを装っていたがいつも心配で胸が締め付けられた。
もし本当に守りたいのなら僕は彼女に近づくべきではない。
それは分かっていた。だから悪人ではないと知った時点で距離を置こうと考えた時もあったけれど。
それでもそれを嘲笑うかのようにミリアは危険に巻き込まれ、いつの間にか……。
ミリアのことが好きなのかと同じ店員の人にからかうように聞かれ、そのすぐ後に車内でベルモットから口の端は上げながらけれど視線は真剣な様子で同じ質問をされた。
僕はその質問に肩をすくめてベルモットへ安室透として自然を装うためとついでに女性避けの恋をしている演技だと台本を聞かせるように感情なく伝えた。
最近は僕目当てにポアロに来る女性も増えていたから自然な理由だったと思う。
悪くはない嘘だと思った。ベルモットも「かわいそうな子ね」と言い少しは信じたようであったし、彼女を見守るために近くにいる理由付けにはなったから。
けれど計算外だったことはその会話をミリアに知られていたことと、もう引き返せないところまで来ていることに僕自身が気がついていなかったことだろう。
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