get well soon

 真夜中に私たちはホグワーツへ帰りました。

 誰かに見つかり罰則ということも覚悟はしていましたが、私たちは見つかることなくスリザリン寮へ帰ることができました。
 私たちがいないことに気が付いた寮生に寮にいないことを告げ口されることもありませんでしたし。

 やはり私たちは最終学年ですので、同じ寮の人から訴えられることは少ないです。それに抜け出す人は今の時期少なくもありません。原作でもよくハリー・ポッターが夜中寮を抜け出していましたが、魔法を使えばそういうことは完璧に防ぐことができますのにそういうものはありません。そこまで厳しい学校ではないのです。

 ですがさすがにスチュワートと一緒に姿を消していたのでまだ起きていた同級生の女性から面白半分にいろいろと追求されましたが。

 それも次の日に魔法省での事件が知られ、その追求も無くなりました。
 なんといってもヴォルデモートが戻ってきたのですから。

 ホグワーツは大騒ぎでした。恐怖に顔を青く染める者、それでも信じようとしない者、嬉々とする者。
 父親が捕まったドラコは顔面蒼白でした。

 私は予め知っていましたので思うところは少ないですが、気分はあまりよくありません。
 ですがやはりヴォルデモートは原作の通りに魔法省へ現れたようなので鉢合わせせず良かったです。



 私は日曜日にちょうど夕食の時間に医務室へと向かいました。
 今医務室には一昨日神秘部で戦い怪我をした人たちがいます。
 その中にはセドリックもいます。彼と同じハッフルパフ生の話によると彼は腕が折れていただけではなく他にもたくさんの怪我や呪いを負っていたようです。
 そんな状態で台座の部屋で最後まで戦おうとしていた彼は強い人なのか無茶な人なのか。
 私としては命を大事にしてほしいところではありますが。

 私は医務室の扉を軽くノックしてゆっくりと開けました。


 「ミリア!」


 するとすぐに私に気が付いたセドリックが私の名前を呼びましたので部屋にいた人たちが私を一斉に見ました。医務室にはセドリックの他にロン・ウィーズリー、ジニー・ウィーズリー、ハーマイオニー・グリンジャー、ネビル・ロングボトム、ルーナ・ラブグットと数人の彼らの見舞い客がいます。
 大きな声で名前を呼ぶのは止めてほしいですが人が少ないであろう時間を狙いましたのでセドリックの友人たちは今はいないのが幸いでした。

 私は私が来たことで嬉しそうにベッドの上で跳ね起きたセドリックへまっすぐ近寄ります。
 彼の嬉しそうな様子といったら、もし彼に尻尾があったのでしたら大きく激しく振っていることでしょう。


 「お身体の具合は大丈夫ですか?」


 ほぼ全身に包帯やらなにやらを巻いて、白いシャツから覗く胸元には何か黒い痣が見えたので、そんなセドリックが大丈夫だとは思いませんでしたが一応聞いてみます。


 「大丈夫だよ。しばらくはここにいなければいけないしこんな状態だけど身体も動かせるしね」

 「後遺症になるものなどありません?」

 「うん。それも大丈夫だって。退院には一週間もかからないそうだから。そんなに本を抱えて図書館帰りにミリアは見舞いに来てくれたのかい」

 「いいえ、違います」


 セドリックの言うように私の手には五冊の本があります。
 私はセドリックのベッドの横にあるテーブルのお菓子やら花やらが敷き詰められている隙間に、手に持っていた本をドサリと起きました。
 ドサリとは大げさな表現ではなく、どれも厚みのある本ですから実際そんな音がしました。

 セドリックの好きなジャンルが分かりませんでしたので、幅広く持ってきたのです。
 これらの本は私も読んだことがあるので中身は確かです。

 私の動作にセドリックは動揺したようで目を見開き本と私を交互に見ました。


 「えっと、ミリアこの本は?」

 「差し上げます。私が面白いと思った本を持ってきましたが、良ければ暇潰しにでも読んでください」


 するとセドリックはさらに目を見開きました。目がこぼれ落ちそうとはこういうことを言うのだなと内心思います。


 「僕に、くれるのかい?すごく嬉しいよ、ありがとうミリア。大切にする」


 セドリックは本当に嬉しそうに言いますので私は照れくさくなり彼から少し視線を外しました。


 「つまらなければ捨てて下さっても構いませんから。それでは私は戻ります。お大事にしてください」

 「え?もう帰るのかい」

 「はい。誰か来るかもしれませんし、私がいては迷惑でしょう」

 「迷惑な訳ないよ。もしミリアが良ければもっといて欲しい。駄目かな」


 セドリックはそう懇願するように言いました。
 怪我人にこんなことを言われますと断りづらいです。
 それに私もセドリックと話をすることは嫌なわけではありませんし。


 「そうですね。誰か人が来るまででしたら構いません」

 「ありがとう。ミリア」


 お礼を言うとセドリックは微笑みます。

 ハッフルパフ生の方に大きな怪我を負っていると聞かされたときはヒヤリとしましたが。
 そんな無事な様子の彼を実際に見て改めて彼が生きていると実感し、私の口元も緩みました。



 結局、二日目だからでしょうかその後に彼を見舞いに来る人はいませんでしたので寮に戻る時間になるまで私は医務室でセドリックと話をして過ごしました。

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