Ministry of Magic2

 私たちは学校の郊外へ出た後に姿現しをし約束の場所でテールと合流して、ポリジュース薬を完成させる前にこれからのことを確認をしました。

 スチュワートに初めから話をしていなかったのは予め話をして、スチュワートのことは信用するとは思っていますが念には念を入れ、誰かに漏れることがあれば危険だからです。
 もちろん最初に確認もしてそれでもスチュワートは構わないと言ってくださいましたので話してはいませんでした。


 「いいですか。これからハリー・ポッターたち六人の生徒が魔法省へ来ますのでそれを私たちはポリジュース薬で魔法省の職員に変化をして見張ります」


 まずは掻い摘んでスチュワートに話しますと彼は首を傾げました。


 「ポッターが?彼はまだ学校だろう。姿現しができる訳でもなしに魔法省に?」

 「はい。彼らはアンブリッジを撒いた後にセストラルに乗って魔法省へ来ます。セストラルはご存知ですよね」

 「ああ、知っているが。セストラル……」


 なるべく真実味があるよう具体的な移動手段を説明しますと、スチュワートは納得するまでに至らない様子でしたがとりあえず頷きました。


 「ここに来る理由は。君は知っているのか?」

 「彼らはヴォルデモートに騙されて神秘部に侵入しようとします」

 「それは……例のあの人が?」


 彼はヴォルデモートの名前にスチュワートは分厚い眼鏡ごしの目を見開きました。


 「ええ。ヴォルデモート自身は遅れて来ますけれど死喰い人がいます。ポッターたちはまずそれと神秘部で戦うことになります」

 「神秘部に何故だ」

 「ポッターにしか触れることのできない物がそこにあるのでヴォルデモートが彼を利用してそれを手にするためです」


 スチュワートは話していくうちにどこか青ざめた様子で私の言葉を聞きます。
 まあ普通でしたらヴォルデモートは恐怖の対象ですしね。

 やはり予め話しておいた方が良かったでしょうか。
 そうすれば付いて来るなんて言わなかったのではと気が付き私は彼に確認をしました。


 「ですので下手をして死喰い人に見つかれば死ぬ可能性もあります。それに死なずに済んだとしてもヴォルデモートに敵と見なされ家族を巻き込み追われることもあり得るでしょう。ですから貴方は目的がないのですから今さらですが帰った方がいいと思います」

 「……家族か。それは君も同じじゃないのか。……そう言う君の目的は?」

 「先ほども言ったようにハリー・ポッターを見張るためだけです」

 「助けるつもりはないのか」

 「ありません」


 私は言い切りました。
 私がここに来たのは現在の様子を少しでも知っておくためです。

 今でしたらヴォルデモートはいませんからこっそりと傍観するのなら危険な確率は低いですし。
 ヴォルデモートに族する狼男の人がいたら来ませんでしたが、彼もまだいませんから離れた場所で見ている程度なら大丈夫でしょう。


 「……いや、俺も行く。それは変わらない」


 できれば断って欲しかったですが、スチュワートは首を横に振り帰ることを否定しました。
 私は内心舌打ちをしましたが、彼の意思が決まっているのでしたら仕方がないです。下手に揉めている余裕はないです。


 「分かりました。ではこれからの行動を話します。まず魔法省に侵入した後は神秘部へ続くエレベーター付近で雑談をしているフリをします。するとポッターたちが通ると思いますがそれを見送ります」

 「ポッターだとすぐに分かるのか」

 「はい。彼らはそのままの姿で来ますから。おそらくは死喰い人の手引きです。そしてハリー・ポッターが入った後に貴方が知っている人ではルーピン、マッドアイ、シリウス…シリウス・ブラックたち闇祓いが遅れて来ます。どのように来るのかは分かりませんが「待て、シリウス・ブラックだと」」


 私の声を遮りスチュワートは大きな声を上げました。
 スチュワートの目が先ほどよりも大きく見開かれています。
 まあ、彼の中でシリウス・ブラックは犯罪者ですから仕方がないでしょうが。
 ヴォルデモートの名前が出たときよりも動揺した様子に少し戸惑います。


 「ええ、シリウス・ブラックです。彼はお尋ね者ですが、本当はダンブルドア側に属しています。ですのでハリー・ポッターにとっては味方ですよ」


 スチュワートは私の言葉に驚愕の表情を浮かべます。
 いつも無表情の彼がここまで表情を浮かべるのははじめて見ました。
 ですが今は話を進めさせていただきます。


 「話を戻しますが大丈夫ですか?」

 「あ、ああ」

 「でしたら続けます。闇祓いたちがどうやって魔法省に来るのかは分かりません。特にシリウス・ブラックは犯罪者ですから姿を私たちのように誤魔化して入ってくるでしょう。ですが、必ず何かが通るはずです。テールに一緒に姿を隠しながらついてきてもらうのはムーディがいるのでできませんが最悪分からなければ分からなくていいことです」


 黒犬の姿で現れるだろうということはなんとなく言わないでおきました。
 確かではありませんし。
 私は近くで話を聞いていたテールへ視線を移しました。


 「テールには外で待っていてもらいますね」

 「…はい、お嬢様」


 テールは耳をパタパタと動かし頷きました。本当は自分も付いて行きたいようで不服そうな顔をしています。


 「そして闇祓いも見送ります。その次に最後に現れるのがダンブルドア校長です」

 「ダンブルドアが…」

 「はい。それも見送り帰ります」

 「……全部見送るのか」

 「はい。ただ見にきただけですから」


 私はしっかりと頷きました。

 今回の戦いで運命が変わっていなければシリウス・ブラックは死ぬでしょう。
 もし私が良い人でしたら助けたはずです。ですが、私は助けるつもりはありません。

 もちろん考えなかったわけではありませんが、リスクが大きすぎます。
 助けてその後、シリウスが存在する未来が正しいのか分かりません。

 それでも正直に言いますと私は運命を迷っていました。けれど、スチュワートが一緒に来ることとなり、私はシリウス・ブラックを助けないと決意することができました。

 大切な級友を危険に巻き込む度胸など私にはありませんから。

 今考えるとだからこそ彼の要求を断らなかったのかもしれません。
 それなら私は酷い人間です。

 決断させてくれたスチュワートに感謝しています。
 こんなこと彼には言えませんが。


 スチュワートは何かを考える素振りをしていましたが、私に何故そんなことを知っているのかなど聞いてくることはありませんでした。

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