Real smile
「ミリアさん、少し話があるんだけど。良いかしら?」
「ここでは話せないことですか?」
「ええ」
私がホグワーツの廊下を歩いていると三人組の気の強そうな女性がそう話しかけてきました。
彼女たちは会話をしたことはありませんが見覚えがあります。レイブンクローの七年生と六年生でありセドリックの取り巻きの一部です。
その時点で彼女たちの目的は簡単に推測できました。十中八九セドリックのことでしょう。
今年に入りこういったことはありませんでしたが、そろそろホグワーツの卒業が近い時期ですので彼女たちも焦ったのでしょうね。
面倒くさいです。
ですが、それだけ彼女たちも必死なのでしょう。
そうですね。セドリックは何拍子も揃う素敵な方ですから彼女たちが恋し、必死になる気持ちも分からなくはありません。
「分かりました」
ですので私は彼女たちの誘いに応じました。
気が強そうとはいえこの人達はそこまで悪い子ではないことを知っていますし。仮に何かあったとして私も負けるつもりはありません。
そう思い私は彼女たちの後に付いて行こうとしました。
が。
「ミリア、こんなところで何をしているの?」
歩み出す前に背後から私に声がかかり私たちはすぐにその声へ振り向くと、そこにはクィディッチのハッフルパフのユニフォーム姿のセドリックがいました。
どうやら彼はクィディッチの練習帰りのようです。
彼はにこやかに私たちの元まで来ますと私の横に並び「何をしていたのかな?」と黙る私たち……いえ、レイブンクローの子へと笑顔を向けて尋ねました。
セドリックは笑顔ですが、その雰囲気は明らかに怒気を含んでおりレイブンクローの子たちは揃って顔を青くして肩を揺らしました。まるで蛇に睨まれた蛙です。
この様子、聡い彼は状況を察したのでしょう。
「セドリック。ただ話をしていただけですよ」
さすがに同年代とはいえ中身は年下ですので少しかわいそうになり私は息を吐いてセドリックへ言いますと、セドリックはチラリと私を見て「だったら僕も混ぜてもらってもいいかい?」と尚もレイブンクローの子たちへ尋ねました。
レイブンクローの子たちは「あっ、あの」とまごつきますがセドリックはそれを笑顔で見つめます。
思っていたよりも相当怒っているようです。
「ご、ごめんなさい!」
レイブンクローの子たちはそう声を上げるとその場から去っていきました。
私たちはその場でその後ろ姿を黙って見送ります。
私は申し訳なくなりました。
どちらに対してにも。
まさかセドリックがタイミング良く通りかかるとは思いませんでした。
それにこんなにも怒るとも。彼は普段はハッフルパフらしくとても温和な人ですから。
セドリックはしばらく無言でしたが、先ほどの笑顔など跡形もなく複雑そうに眉を寄せて私へ振り返りました。
「やっぱり、僕がらみだよね」
その言葉に私は違いますとも言えず言葉を濁します。
するとセドリックはすぐに是と取り顔に憂いを浮かべました。
「ごめんね、ミリア。大丈夫だった?」
「別に。あの子たちも悪い子ではないので問題ありません」
「悪い子じゃないからって危険でないとは限らないよ。ましてや恋愛に関する暴走なんて僕はよく知っている。…これ以外にこんなことは他になかった?」
「ええ、ありません」
実際は去年までは少しありましたが、それはセドリックに言うことを止めました。
今でさえ不安や気遣いを示す彼に言うことではないと思ったからです。
それに呼び出しとは言っても口頭注意でしたし。
私だって危ないと思えば付いて行ったりなんてしません。
「…自分が情けないな」
セドリックは額に手をやり前髪をかきあげるとそう漏らしました。
「僕は君を守りたいと思うのにいつも守れないで君に危険を引き寄せているね。前のアンブリッジからの逃走だってそうだ。後輩が君に攻撃しようとしたのに僕は何もできなかった」
「ですがあなたは止めてくださいました」
「口で言っただけだよ。もしあの時に君が傷ついていたかと思うと僕は、今でも後悔している。しかも、君に嘘を吐いていたしね。掲示が出された時に僕は何も所属していないだなんて言っていたけど、本当はその時にはもうすでにダンブルドア軍団に加わっていたんだ」
セドリックは話すのも辛そう私に明かしますが、申し訳ありませんがそれは最初から知っています。
そんな私は確実に彼よりも嘘つきですので内心少し気まずいです。
私は彼と違い嘘を明かすつもりはありませんが。
「その集まりに関しては話さないことが正解でしょう。それにあの時にそんな話をされても私が困りました」
それにダンブルドア軍団の秘密を明かしたら確か顔中に出来物ができるハーマイオニーによる呪いがかかっていたはずです。
そんな呪いを目の前で受けられても困ります。
「…ありがとう、ミリア」
なぜかセドリックは私へお礼を言い初めて微かに微笑みました。
「本当は、僕がダンブルドア軍団に参加したのは少しでも強くなりたかったからなんだ。僕は君を守れるくらい強くなりたかった」
「あなたはもともと強いでしょう。去年は代表選手にも選ばれたくらいです」
「ううん。それだけじゃ足りない。だって僕は君を助けられたことなんてないから。結局今回も巻き込んでしまったし。助けられてばかりだ」
セドリックはそう言いますが。
そんな彼の瞳を見ていられず、私は彼から視線を逸らしました。
私を守りたいって…。
「私は守ってもらいたいなんて考えてはいません。それに第三の課題の時に私の言葉に従ってくださったことが私は嬉しかったです。守っていただかなくても、貴方が私を思ってくださるだけで私にはもったいないことです」
話していて顔が熱くなります。
もう本当にこういったことを言うのは苦手です。
それなのに言ってしまうなんてとても恥ずかしいです。
言って少ししても言葉の返ってこないセドリックを私は見上げました。
するとそこには同じく顔を真っ赤に染めたセドリックがおり、私の視線に気が付くと先ほどレイブンクローの子たちへと向けたものとは異なるとろりと甘い笑顔を綺麗な顔に浮かべお礼を言いました。
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[mokuji]