にゃあ
(セドリック視点)
ミリアと友人関係になった七年生のある日、レイブンクローの同級生で女性の友人から「今ミリアに話しかけてみなよ。面白いから」とよほど楽しいのかニマニマしながら言われた。
それを聞いて訝しみながらも僕は不安になりミリアを探しに行くと、授業の帰りなのか廊下を歩くミリアを簡単に見つけられた。
相変わらず凛とした佇まいで歩くミリアは恋する僕にはキラキラ輝いて見える。彼女に会えただけで僕は嬉しくて笑みを作りミリアへ歩み寄った。
「やあ、ミリア。これから時間はある?」
僕はもうレイブンクローの友人の話などどうでもよくなり友人になってからはいつもの通りに普通に彼女に声をかけた。
そもそも面白いことなんて僕にとってみたらこれこら彼女と一緒に過ごせるのなら興味はない。
と、思っていたけれど違っていた。
ミリアは僕を見ると友人になってからはあまりなかったけれど、今はとても迷惑そうな表情でこちらを見た。見上げる視線が少し厳しい。
それに何かあったのだろうかと僕は不安になり少し怯んだけれど、ミリアはすぐに返事を返してくれた。
「今日は私に話しかけないでください……にゃあ」
「えっ」
まるで攻撃魔法をかけられたかのような衝撃を僕は受けた。
語尾が、にゃあ?ひどく棒読みではあったけど、確かににゃあと彼女は言った。
思ってもみなかったことに僕は赤くなった顔と緩んでしまいそうになる口を手のひらでおさえてミリアを見た。
「えっと。どうしたの、その語尾」
「ただの罰ゲームですから今日は私にこれ以上話しかけないでください、にゃあ」
やはりやる気のない鳴き声を語尾に付けてミリアは同じ注意を再び言った。よほど語尾を付けて話したくないのだろう。
でもそんなやる気のないところも、恥ずかしいのか少し頬を染めて語尾を言う度に目を逸らすところも全てが可愛い。
僕は内心でこの情報をくれた友人に感謝の言葉を送り、そしてふと気が付いた。
…こんな可愛い彼女を他の誰かは知っているのだろうか。
それに気が付いてしまうと僕の胸は少し嫌な鼓動を鳴らした。
僕以外の誰かに聞かれたくない。
思わず他に誰と話したか聞きたくなったけれど、ミリアに今日は話しかけるなと二度も言われてしまっては聞くことなんてできない。
それに聞いてしまってその誰かに苛立ちを感じるなど、そんな権限は今の僕にはないのだ。
けれど、それでもこれだけは言っておかなくてはならない。
「うん。じゃあ今日はミリアと話をするのは止めておくけど。できれば僕以外の人と話さないでほしいな。君のそんな可愛いところを他の人に見せてライバルを増やしたくないからね」
僕はそうミリアへお願いをすると、ミリアは何か言いたそうな表情をして口をパクパクと動かしたけど、これ以上語尾を言いたくないらしく何も言わずに頷いた。
そんなことをミリアと話していると、彼も授業終わりなのだろう廊下をスチュワート・バックスが通りかかった。
彼は僕たちをチラリと見て我関せずと通り過ぎようとしたので僕は普段ミリアと話している時は呼び止めないけれど「バックス!」と今日は彼を呼び止めた。
「君も今日はミリアと話をしないでくれ」
僕はすぐに彼にそう懇願すれば、僕たちの横でバックスは歩みを止め眉間に深く皺を刻み何も返事をしない。
返事がないことに不振に思った僕も眉を寄せる。
もう少しで僕は彼にミリアに好意があり、彼女のこの可愛い状況を堪能したいと考えているのではと疑いそうになるところでバックスは口を開いた。
「分かったから、お前も俺に話しかけるな…わん」
「……バックス、君もかい」
彼は語尾にひどくやる気のないわんを付けて答えた。
まさかの事情に僕の疑心はストンと消えた。だから言葉を発するのを悩んでいたのか。
それにしてもミリアが猫でバックスが犬の語尾。
罰ゲームと言ったけれどレイブンクローやスリザリンはグリフィンドールとハッフルパフと比べふざけたことをするのは少ない。
けれど、やはり二つの寮も最終学年だからか思い出作りとして普段とは少し違ったことをしたくなるのだろうか。
うちのハッフルパフの同級生も今年はいつも以上に七年間培ってきた経験を生かしこっそりと規則をやぶる人が多いし。
でも、2人揃って動物を模した語尾。
少し……羨ましくなった。
「……僕も語尾ににゃあって付けようかな」
思わず呟いた言葉にミリアとバックスは揃って怪訝そうな表情をして僕を見たけれど、何も言うことはなかった。
――その日、セドリックの周りではいつも以上に黄色い声がこだましたという。
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(裏話)
セドリックと会う前の魔法薬学の授業中。
教壇に立ち教鞭をとっていたスネイプは生徒へ視線を向けた。
「ではエルゼーヌの薬の効果を反転させるものは何か、ミス・ファスト」
「はい、マルディグを加えた肢節薬ですにゃ」
「……………………よろしい」
スネイプは少し沈黙をしたがおかしな語尾は聞かなかったことにしたらしくすぐにまた話の続きをした。
ミリアの方もまた何事もなかったかのようにノートを取っている。
しかしこの事態に授業を受けていた生徒はざわつき、ミリアの横で授業を受けていたスチュワートは自分が当てられないことを祈った。
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