落とし物事件
私は学校帰りにスーパーに寄り片手に買った商品が詰まった袋を持ち帰路を歩いていました。
今日は特売がありましたので思わず買いすぎてしまったとは思っていました。
けれどまさか袋が破れて中身が散らばってしまうとは思いませんでした。
イギリスではそこまでの買い物はテールに任せていましたし、この世に生まれてからこのように袋が破けることははじめてですので油断していました。
現在私は夕食時の住宅街にいるので、誰からも見られなかったのは運が良かったです。
こんな情けないところ人には見られたくないですし。
ですが魔法を使うか迷いましたがやはり念には念を入れ私は手作業で急いで落ちた物を拾い集めました。
とはいえ拾ってみますとやはり量が多すぎました。
醤油や紙パックのドリンクやいくつかの野菜も買ったので他にも学用品の入ったバッグを持っていたので私の腕では持ちきれません。
ですので私はバックに入れていた魔法のかかった袋を使おうかと思いました。
その魔法の袋は小さいながらも物が常識以上に入るというものです。
それに落ちてしまった物を入れてしまえば問題なく家に帰れるでしょう。
私はそれを使うために周りに人がいないか確かめようとして、確かめる前に声がかかりました。
「大丈夫ですか?」
落ち着いた、大人の男性の声が背後からかかり、私はピクリと肩を揺らしました。
恐る恐る背後を振り向きますと、そこには目の細い髪の長めな体格の良い男性がいました。
「えっと、はい。大丈夫です」
「買い物袋が破けたのですか?」
男性は私の手に持った荷物と破れた袋を見て、把握したようです。
彼は近くにしゃがみますとまだ落ちていた物を拾いだしました。
どうやら拾うのを手伝って下さるようです。
「あっ、ありがとうございます」
私が慌ててお礼を言うと彼は微笑みました。
「いえ。構いませんよ。けれど破けてしまったのでしたら他に袋はありますか?」
「…いえ」
「そうですか。僕が持っていたら良かったのですが残念ながら持っていませんし。さすがにこの量だと貴方1人では持てないでしょうから。良ければ近くに僕の住んでいる家があるので、寄りませんか。何か袋を用意しますよ」
彼は紳士的に提案して下さいました。
確かに私1人ではこの量を持てません。普通でしたら。
ここで断るのも変でしょう。
なんとなく悪い人ではなさそうですが。
ナンパという訳でもないようですし、彼は女性には困らなそうな容姿をしてます。
「そうですね。お言葉に甘えさせていただけると嬉しいです」
私はその提案を受けました。
「なるほど、ミリアさんは英国出身なんですね」
「はい。今はバイトをしながら大学に通っています」
「へえ。これまでに日本に来たことは?」
「いいえ。ありません」
「それにしては日本語が上手ですね」
「ありがとうございます。日本には昔から興味がありましたのでよく映画を見たり、本を読んで勉強をしていました」
私の落ちた荷物の大部分を沖矢さんが持ちながら沖矢さんの家へと向かう道中。私は彼からたくさん質問をされました。
ああ、彼は沖矢昴というらしいです。同じ大学生だそうです。彼は博士課程らしいですが。
「なるほど。本や映画は勉強になりますよね」
「はい。日本はサブカルチャーが多いので勉強しやすかったです。それに少し分からなくても日本の方は丁寧で優しいですし」
本当は元は日本人なのであまり勉強の必要は無かったですが。
イギリスにいて忘れないためにそういうもので学んでいたのでまったくの嘘ではありません。
私の話を沖矢さんは微笑みながら聞いて下さいました。話しやすい人です。
沖矢さんに着いて住宅街を歩いていきますと、敷地の大きな富裕層の家が建ち並ぶ区画へときました。
やはり沖矢さんは良い家の人なのでしょうか。
育ちが良さそうですし。
そこから少し歩いて行くと私たちは大きな洋館へたどり着きました。
表札は沖矢ではなく工藤となっています。
え?
私は思わず沖矢さんを見上げてしまいました。
すると沖矢さんは微笑み「今は知り合いから住む家を借りているんです」とおそらく私が豪邸と表札の苗字が違うことに驚いているのだろうと勘違いしたのでしょうそう教えて下さいました。
……この家は、工藤新一の家ですよね。なんとなく見覚えがありますし、隣の個性的な家はもっと見覚えがあります。
私は衝撃が強すぎて放心しました。
沖矢昴。彼は原作に関わりある人物なのでしょうか。
主人公の家を借りているということはほぼ百パーセントそうなのでしょう。
「とても、立派な家ですね」
「そうですね。僕には勿体無いですよ」
沖矢さんはそう微笑み言いました。
それから玄関まで行くと「袋を持ってきますね」と荷物を玄関の棚に置いて廊下の奥の部屋へと一人入って行きました。
私が居心地悪く待っていますと、沖矢さんはすぐに紙袋を持って現れ、食材を詰めるのを手伝ってくださいました。
私は詰め終わると、内心は急いでお礼を言って帰ろうとしましたが。
私が紙袋を持つ前にヒョイと紙袋を取られました。
「良ければ夜も遅いですから送っていきますよ。女性の一人歩きは危険ですから」
「え?」
確かに外はもうだいぶ暗い時間になりました。
ですが、送ってくださるなんて。…彼を信用していいのでしょうか。
この家に住んでいるということは悪い人ではないのでしょうが。
「大丈夫ですよ。見送りはあなたのマンションの外までにしますから」
「え?なぜ」
私は驚きました。だって私はマンションに住んでいるなど一言も言っていません。
「いえ、買ったものを見るに一人用の食材でしたのでホームステイではないかと。それにあなたは留学生ですから一軒家に住んでいる可能性は低いですしね。簡単なことですよ」
「アパートの可能性もあるのではないですか」
「そうですね。…実は先ほど物を拾う時にカバンからチラリとカードキーが見えたんです。最近ではアパートでも増えてきましたが、やはりマンションの方がカードキーの可能性は高いですからね」
沖矢さんは笑顔で推理を語ってくださいました。
そこまで見ていただなんて。
さすが主人公邸に住むだけあります。彼は親戚か何かなのでしょうか。
余計に家に連れて行きたくありません。
「沖矢さんはすごいですね。当たっています。ですが気持ちは嬉しいですが。人通りもある道を通って帰りますから送っていただかなくても大丈夫です。ありがとうございます」
「そうですか?それでしたら道中お気をつけてくださいね」
「はい、袋もありがとうございました」
沖矢さんは心配そうな表情をつくりましたが、深くは言わずに頷いてくださいますと門の外にまで出てお見送りをしてくださいました。
沖矢さんはいい人だとは思いますが。
その洞察力が怖いです。
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