get away

 ある夜、寮に戻らなくてはならない門限の九時になりそうなので私は図書室から寮へ帰ろうと廊下を歩いていました。
 私の腕の中にはクロがいます。
 彼女は私のことを図書室の前で待っていて下さいました。私が廊下に出るとすり寄って来ましたので一緒に帰ることにしたのです。
 本当に可愛いです。


 私が腕の中の子猫に癒されていますと、何やら前方から騒がしい音が聞こえてきました。
 それにクロはゴロゴロと甘えていた視線を廊下の先へとやりました。
 ですので私も視線をそちらへ向けますと、セドリックが2人のハッフルパフの後輩を引き連れこちらに走ってくるところでした。

 一応ホグワーツでは廊下を走ってはいけないという規則はないので廊下を走っていることに問題はありませんが。
 こんな時間に寮と逆方向の図書室へ走っているだなんて。嫌な予感しかしません。

 私の予想は当たりセドリックの後ろを走っていた後輩は私にそれぞれ杖を向けると私へ魔法をかけようとしてきました。


 「ステューピファイ、麻痺せよ!」

 「待って!!」


 呪文に気がついたセドリックは静止の声をかけますが、先に走っていたせいで後ろが見えなかったので間に合いません。
 赤い閃光がこちらへと放たれます。


 「プロテゴ、護れ」


 私はすぐに杖を出しその魔法を防ぎました。

 申し訳ないことに思わずクロを落としてしまいましたが、きれいに着地したクロはやってきた人たちに毛を逆立て抗議するようシャーーと唸りました。


 「突然呪文をかけてくるなんて不作法ですね。あなた方はこんな時間に何をしているのですか」


 ハッフルパフのメンバーからおおよその見当は付きましたが私は尋ねました。
 するとそれを代表してセドリックが答えて下さいました。


 「ごめん。今、急いでいて。説明は後でするからできれば通してもらえないかな」


 セドリックは質問に答えずに頼んできました。

 …別に通りたければ許可を得ずに勝手に通ればいいじゃないですか。

 とは思っても、今彼からしたら私がどちら側かなんて分かりませんものね。

 恐らく時期的にも彼らはダンブルドア軍団の集会をアンブリッジに見つかり逃げる途中なのでしょう。
 そしてセドリックと図書室へ逃げようとした後輩2人はスリザリンである私を見て、敵と認識して攻撃してきたと。

 私としてはこの出来事は関わる必要がないと思っていましたので、結局ダンブルドアがいなくなるだけのことでしたし関わるつもりはありませんでした。
 それなのに逃走中の人たちとここで会ってしまうなんて。

 私は視界の隅で足元にいるクロがピクリと耳を震わせ彼らの背後を見たのを確認し、数歩セドリックに近寄りました。


 「見つけたぞ!」


 三人の背後から嬉々とした声が聞こえてきました。

 それは私の後輩のドラコ・マルフォイでした。
 後ろにはいつものクラッブとゴイルの2人と私よりも1つ年下のスリザリン生が控えていました。
 彼らは杖を手にしています。


 「お前たち、集会に参加していたんだろう。さあお前たちもアンブリッジ先生のいる校長室に行って…!?」


 ドラコはハッフルパフの三人により隠れていた私に気がつくと言葉を止めました。
 そして警戒しているように私をじろりと見ます。


 「…ドラコ。このような時間に何をしているのです?騒がしいですね」


 私はドラコを見つめて尋ねました。
 するとドラコは小さく肩を揺らしましたが、すぐに気を持ち直して言いました。


 「僕はアンブリッジ先生に頼まれて規則違反の人を捕まえていました。彼らは無許可の集会をしていて違反したので追いかけていたんです」


 ドラコはハッフルパフの三人へ杖を向け睨みながら言いました。
 それに対するセドリックたちハッフルパフも大人しく捕まる気は無いようでみな杖を構えています。


 …面倒くさいです。


 ですが情けないことに現在スリザリン生の中できちんと戦えるのはドラコだけでしょう。
 1つ年下のスリザリンの子もあまり優秀ではありませんし。
 彼らがセドリックと相手をして勝てる訳がありません。

 私が協力すれば分からないかもしれませんが、もちろん参加するはずがありません。


 「はあ。でしたら彼らは違います。しばらく私と話をしていましたから」

 「ミリア…」

 「なっ!?」


 セドリックとドラコはそれぞれ驚いたように私を見ました。

 いずれバレる可能性の高い嘘です。
 ですが、ここは収めておいた方がいいと思いましたので私は嘘を吐きました。


 「ミリア先輩、彼らを庇うおつもりですか」

 「庇う?何故ですか?」

 「貴方は、セドリック・ディゴリーと仲が良いから」


 ドラコは苦虫を噛み潰すように私に言いました。

 …仲が良いですか。
 今回の場合はどちらかと言えばドラコを守るものだったのですけど。


 「…。私が嘘をついていると思うのでしたら良いではないですか。私の言葉を信じなければ。くだらない。早く戦いでも何でもして早く済ませてください」


 私が冷たくドラコへ言いますと、ドラコは動揺したようで瞳を揺らしました。
 そして1つ舌打ちをしますと「…でしたら、先輩を信じさせていただきますよ。どうせハッフルパフですしね。行くぞお前ら」と言い、背中を向けて去っていきました。


 彼らの姿がなくなるとドラコの背中を睨み付けていたセドリックと他の二人のハッフルパフ生が私へ視線を戻しました。


 「ミリア、ありがとう」

 「別に貴方の為ではありません」


 私は足元にいるクロを抱き上げてセドリックの謝礼に答え、門限に間に合いそうにありませんが、急いで寮へと向かいました。

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