opening

 私は夏休み家の大量の本に囲まれた書斎の中で新聞を読んでいました。
 高い天井にまで達する本棚にはびっしりと本が詰まっています。それに部屋にある本は見えているものだけではなく、本棚は気まぐれに並ぶ本をカタコトと奥から出したり移動したりして交換しています。
 この部屋の本を読み終えることは魔法の道具でも使わない限り不可能でしょう。


 日刊預言者新聞には原作のとおりヴォルデモート卿の復活について書かれてはいませんでした。
 それどころか、ハリー・ポッターやダンブルドア校長を貶めるような記事が目立ちます。
 ダンブルドア校長はまだしも子供のハリー・ポッターにこんな記事をいい大人が書くなんて本当に、愚かな。
 読みたくなくなりますが、世間の動向を知るためには読まなくてはなりません。来年度はアンブリッジも現れることですし。

 来年度は何が起こるのでしょうね。
 先が確かではない今はやはり怖いですが。
 未来が分からないのは本当は普通のことなのでしょう。

 新聞を読んでいると書斎の扉がノックされました。
 ですので私が返事をすると、テールがカチャリと音を立て扉を開き中に入ってきました。


 「お嬢様、お茶はいかがですか」


 どうやらテールは休憩の誘いに来て下さったようです。
 気がつけばもう三時間書斎に籠っていました。

 私は持っていた新聞を折り畳み机へ置き、テールへ視線を向けました。


 「テール。そうね、いただくわ」

 「ではこちらにお持ちいたしますか?」

 「いえ。せっかくですので休憩をします。そうね、テラスにしようかしら」

 「はい、テールめはご用意いたします!」


 テールは恭しくお辞儀をして、お茶の準備をするために先に部屋を出ていきました。

 テラスはテラスと言っても空は魔法で映している部屋なので野外ではありません。日が差したり、または雨なども降りますのでほとんど野外と変わりはありませんが。

 私は立ち上がり一度部屋にある本棚を見上げます。壁一面が本ですのでとても壮観です。

 ここには学校の図書室にもない本もたくさんあります。禁じられた魔法だけではなく。教科書では習わない魔法や、薬学、一族が培った研究の本。
 これは私の家の最も貴重な財産なのでしょう。
 『知は何よりも優れたり』という家訓を昔親から教わりました。
 それが正しいのかは別としても、私は学ぶことが嫌いではないので悪くない家訓だと思います。
 それに知っているからこそ、できることもあります。

 私は目線を本棚から下ろして、テールの待つテラスへ行くために書斎の細かな装飾のなされた重厚な扉を開きました。

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