悪夢事件

バスジャック事件の後、私は安室さんへ無事にお礼の品を渡しました。
渡した時に安室さんはいつもの余裕のある表情を崩して驚いた表情をしていましたが、どうしたのでしょうか。

まさかこれが事件につながることではないですよねと一抹の不安を覚えましたが、安室さんは少しだけ顔の色を染めて喜んだ様子でお礼を言ってくださったので、杞憂でしょう。
とても嬉しそうなのであげたのが偶然にも気になっていたブランドだったり、そんな簡単な理由ですよね、おそらく。


バスジャックの後はしばらくは特に事件に巻き込まれませんでした。
ですので私はそんなある日に普通に大学の女友達と水族館が併設された遊園地へと遊びに行きました。


ら、コナン少年と探偵団の子供たちと博士を見かけました。


……これは事件が起こりそうですよね。馬でも鹿でも分かります。

ですが急に事件が起こるからと帰る訳にもいきませんので、警戒しながらも日中は楽しみました。

そして夕方になってから友達はバイトがあるということでお開きとなり私は帰宅しました。何事もなくてよかったです。



と、なるのがいつもの私でしたが。

私は帰る前に友人と話をしていると、遊園地へ一人で駆けて行く安室さんを見かけました。
なにやら真剣な面持ちでこちらには気づいていない様子でしたし、あまり関わらない方がいいと思い私も気がつかないふりをしました。

するとそれからすぐに先ほど見たばかりの安室さんからメールが届きました。

メールの内容は『良ければこれから食事にでも行きませんか?』というものです。携帯のアドレスはお礼の品を渡したときに何かあった時のためにと交換していました。

ですが、先ほど駆けて行く安室さんは食事になんて行っている余裕などなさそうな雰囲気でしたのに。
内心疑念を抱きながら私は『ええ、構いません』と返しますとすぐに安室さんから『ありがとう。これから○○駅に待ち合わせでいいですか?』と返信がきました。
私は了承の返事をしてから。遊園地を出て友達にもう少しこの近くを見てから帰ると嘘を言い、ここに残りました。

おそらく安室さんもコナン少年と一緒に何かの事件に噛むのだか進行形で噛んでいるのでしょう。
そして先ほどのメールは私がここにいることに気がついた安室さんが私をここから逃がすためのメールかと思います。

お優しい人ですね。


安室さんはおそらく漫画で重要な人物でしょうし、死ぬ確率は低いとは思います。
ですが、二度も助けられたのです。少し離れて見守るくらいなら危険も少ないでしょう。
私は携帯を仕舞いました。


……危険は少ないと思った時もありました。

ただいま私は停電した観覧車の物陰にいます。
そこで魔法道具、着ていればマグルから存在を認識されない魔法のかかった真っ黒のローブを羽織り、フードを深く被るという怪しい装いをしています。

これで同じ魔法使いでないかぎり誰からも存在を悟られません。

私はもし誰かに見られたら通報される怪しい井で立ちで安室さんを見つけこそこそと見守っていたのですが。

安室さんは観覧車の上で黒いかばんを背負った黒のフードの男性と戦ったり、爆弾を解除していたりと忙しい様子でした。黒フードの人と戦う意味は私には分かりませんでしたが明らかにこれから食事に行く人のすることではありません。そして、安室さんは公安で黒フードの男性はFBIだったそうです。
とりあえずは味方と思って思ってもいいのでしょうか。


私は爆弾を解除した安室さんの側にいると、真っ黒のヘリから銃弾が撃ち込まれました。
それによりその後に安室さんの上から大きな鉄のパイプが降ってきましたので、私は思わず姿現しをして安室さんを押し倒し避けました。


「いっっ」

「ミリア、さん?」


その際に足を擦り思わず小さな声を零してしまいました。
ローブは多少の不自然な現象も隠してくださいますが、なぜか声は隠してくださいません。

すぐに声を隠し安室さんから離れてじっとしていますと、安室さんは空耳だと判断したのでしょう。「彼女がここにいるはずがないか」と呟きますと安室さんはすぐにコナン少年の加勢へと向かいました。
足が痛いですが、私もその後を追います。

外へと出ますと空高くから降りてきたヘリが銃弾を観覧車へと撃ち込んできました。

思っていたよりも大きな事件のようです。もしかして劇場版でしょうか。なんて。まさか。
……いえ、その可能性が高いですね。

コナン少年がヘリを見て黒の組織とか言っていたので撃ってきているのは黒の組織のジンさん一行なのでしょう。
裏の世界の人がこんなに大々的に動いて良いのかと思いますが、漫画の世界ですから気にしてはいけないのでしょう。

私は必死に観覧車の柱に捕まりながら子供たちが乗っていることに気がつきゴンドラや降りそそぐ瓦礫、弾丸の軌道修正などのために必要最小限に魔法をかけました。

観覧車が軸から外れて地面を転がりだしたときは死ぬかと思いました。いえ、普通は死にます。

そのころには私は安室さんよりも子供たちの方が心配で、少しくらい不自然でも構わないつもりで魔法をかけていました。私がいなくてもどちらにしても彼らが死ぬわけはないでしょうが、これはもう気持ちの問題ですね。


結果サッカーボールや重機のおかげで観覧車が止まり、子供たちは奇跡的過ぎるほどに無事でした。

最後に安室さんの様子を確かめますと、彼も疲れてはいるようですが生きていましたので私はその場を誰にも気づかれずに去りました。

久しぶりに大きめの魔法の使用でしたので疲れました。
安室さんとの約束の駅へ行こうかと迷いましたが、約束の時間はもう過ぎていますし安室さんは来ないでしょうから私は帰るとのメールを安室さんへと送りそのまま家へと帰ることにしました。
普通でしたら遅れても来てくださるのを信じて待つものなのかもしれませんが、私には当てはまりません。

帰宅の途中、メールの着信音が鳴りました。安室さんからです。


『ミリアさん、本当にすいませんでした。急な予定が入ってしまって約束の食事に行けなくなってしまい。しかも行けなくなるとのメールもせずに。もしミリアさんが良ければ埋め合わせをさせて下さいませんか?』


との謝罪のメールがきました。

もちろん、彼が私を守ろうとして嘘をついていたことは分かっていますので責めるつもりもありませんし。そもそも私も待ち合わせ場所に行っていませんもの。
私は返信に迷い、少し立ち止まって考えて


『いいえ、構いません。埋め合わせなど気を使ってもらわなくて大丈夫です。いつも安室さんにはお世話になっていますからそこまでしていただくなんて心苦しいですので。それに安室さんのことは信じていますから、どうかお気になさらないでください』


と返事を送りましたらすぐに返信がきました。


『僕がしたいことなんだ。だからお願いします。僕に埋め合わせをさせてください』


……本当にかっこいい方ですね。事実を知っているからこそ余計にそう思えてしまいます。
そして、ここまで言われてしまっては断れません。
本当に気をつかっていただかなくても結構ですのに。


『ではお言葉に甘えてよろしくお願いします。楽しみにしていますね』

『ええ、期待していてください。ありがとうミリアさん』


いいえ、お礼を言うのは私の方です、安室さん。
その言葉は言うことができませんことがもどかしいです。


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