同郷事件

スチュワートは卒業して入社した魔法薬学関係の会社の都合で日本にまで行くこととなった。

魔法使いの国外へ渡るための交通手段は多彩である。スチュワートはその中でも“扉の部屋”と呼ばれる場所から日本へと渡ることにした。
扉の部屋とはその名の通りたくさんの扉がある部屋のことである。
少しばかり値は張るがその扉は海外の扉へと繋がっており、ただ扉をくぐるだけで海外のおおよその行きたい場所へと行くことができる。なのでイギリスから日本へ行くのも魔法使いにはあっという間の短時間である。
スチュワートは慣れた手つきで日本へと繋がる扉を開いた。


スチュワートが扉を開いた先にあったのは海とまだ赤い血を流している死体だった。
そしてその横に黒い服を着た長髪と帽子の男が二人。

……どうやら扉は海辺の廃工場の外へと続く扉に繋がっていたらしい。

そしてこの二人はマフィアとかいうマグルの組織だろうとスチュワートはすぐに気がつき、黒い服の長髪の方の男がスチュワートへと銃を向け撃つ前にすぐに扉を閉めた。

扉に銃弾が当たっただろう振動を掴んでいたドアノブに感じたが、なんとか扉を閉め逃げることができた。
今あの黒い男達がスチュワートを追うために扉を開いてももうただの廃工場しかないだろう。

日本は安全な国だと聞いていたけれど、どこにも悪い人はいるらしい。


「あなたがなぜそのような格好でいらっしゃいましたかは分かりました」


それから再び違う扉へ繋ぎ日本に行く前にスチュワートは瓶底メガネや無精ひげを剃って身なりを整えた。さすがにマフィアに会ったままの格好で行くのは憚られたからだ。
用事を済ませてから、同級生であったミリアの様子を見に行くことにして彼女の勤めるバイト先のカフェへと行くと、ミリアはスチュワートを見てとても嫌そうな顔をして迎えてくれた。
後少しでバイトの時間が終わるそうなので、スチュワートはコーヒーを頼んでミリアを待つ。その間にミリアは「もしかしてミリアさんの彼氏ですか?すごくかっこいい」と女性の店員に尋ねられていた。
スチュワート自身もいくつか熱い視線を向けられ、こんな格好をせざる得なくしたマフィアを少しだけ心の中で呪った。

もうすっかり日の落ちた帰り道、ミリアからなぜイメージチェンジをしたのかと尋ねられ理由を言ったことで冒頭の台詞に繋がる。
ミリアはまたもやすごく嫌そうな顔をした。

まあ、ミリアは昔からトラブルに巻き込まれることを嫌っていたので、その反応は仕方ないだろう。


「すまない。やはり俺は来るべきではなかったな」

「別に構いません。私も級友とお会いできるのは嬉しいですし。スチュワートの元気そうなところも見られて安心いたしました。イギリスは大丈夫、ではないでしょうが。スチュワートは大丈夫ですか?」

「ああ、俺は純血で蛇寮だからな。問題はない」

「それなら、良かったです」


イギリスでは今はヴォルデモート卿が闊歩しているので、だいぶ荒れている。
スチュワートは口には出さないが、ミリアが日本へと渡ることとなって安堵していた。
彼女も純血のスリザリン寮ではあるが、やはり遠い他国にいた方が安全度も上がるだろう。


「あれ?ミリア姉ちゃん」

「あら、コナンくん。こんな時間に今帰りですか?」


店を出て10分ほどしたところでだろうか。
ミリアとスチュワートが雑談をしていると幼い声で呼びかけられた。

どうやらミリアの知り合いらしいとスチュワートも足を止めたミリアに合わせて立ち止まる。


「う、うん。遊んでたら遅くなっちゃって」

「そうですか。……ああ、そういえば私、お店に忘れ物をしていました。ですのでコナンくん一緒に帰ってもよろしいですか。スチュワートも構いません?」

「俺は構わない」


恐らく少年を一人で帰らせないための嘘だろうなとスチュワートは分かったが、あえて口にすることはしなかった。

少年の方もそのことに気がついたらしい、少しだけ口をもごもごとさせてから「ありがとう、ミリア姉ちゃん」とお礼を言う。
こうして元来た道を一緒に戻ることになった。


「あの、ミリア姉ちゃん。その人は誰?」

「彼はスチュワート。私の通っていたイギリスの学校の同級生です」

「スチュワートだ。よろしく、コナン・・・でいいのか?」


スチュワートはコナンへと笑いかけた。
正直子供はそんなに好きではないが、愛想を良くした方が自然だろう。そんな考えであった。


「うん。ミリア姉ちゃんも上手だけどスチュワートお兄さんも日本語上手だね」

「ああ、学校で勉強したからな」


実際のところはミリアは実力(とスチュワートは思っている)だが、スチュワートの方は魔法の力である。


「スチュワートお兄さんも学生なの?」

「いや、もうイギリスで働いている」

「そうなんだ。どんなお仕事しているの?」

「薬品関係の仕事だよ」

「薬品?」

「ああ、今は人の年齢を戻す研究をしている」

「っ、年齢を戻す!?」

「アンチエイジングの事ですね。スチュワート、その言い方では怪しい薬ですよ」


質問してくるコナンへとスチュワートが子供相手だからとあまり隠し立てせずに話していると、突然コナンが声を上げた。

そこまで驚くことだろうかと首をかしげると、ミリアは呆れたように息を吐きスチュワートの言葉を訂正する。

スチュワートは実際に年を戻すための研究をしていたが、どうやらこの少年には刺激が強すぎたらしいと理解して、ミリアのフォローに乗ることにした。


「そうかアンチエイジングというのか。やはり日本語は難しいな」

「十分お上手ですよ」

「スチュワートお兄さんはアンチエイジングの研究をしているの」

「ああ、美容関係の薬品の研究をしている。まだ新人だから手伝いばかりだけどな」


それからスチュワートはコナンの家に着くまでずっとコナンに質問攻めにされた。正直だいぶ子供の相手は疲れたが、それよりも帰り道ミリアの方はもっと疲れた様子をしていたのでスチュワートは不思議に思ったが、学生時代と同じように無言で隣に並んでいた。





ーーーーーー
(夢主視点)

後日。
店のテーブルを拭いていると、安室さんが話しかけてきました。


「ミリアさん。貴女の知り合いが店に来たらしいですね」

「あら、安室さん。ええ、イギリスの学校の同級生です」

「とても格好良かったとみなさんが楽しそうに話していましたよ。もしかして彼はミリアさんの彼氏ですか?」

「違います。ただの同級生です」

「そうですか。良かった」


私の返答に安室さんは花が散るような笑顔いたしましたが。
これも安室さんは演技なのですよね。
さすが肩書きが立派なことだけありお上手です。

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