魔女事件

「あっ、魔女のお姉さんだ!こんにちは」
「あら、こんにちは」

ポアロの店の外の立て看板を整えていましたら可愛らしい声でそう呼ばれましたので、私は肝が一瞬だけ冷えました。
それでも動揺を見せないように返事をしましたが。

私を呼び止めた女の子はこの世界の主要キャラクターである歩美さんでした。後ろにはいつも一緒にいる元太くんに光彦くんもいますのできっと二階のコナン少年を訪ねてきたのでしょう。


「え、お姉さんって魔女なんですか?」

「すげえな魔法が使えんのか!」


歩美さんの言葉を信じたらしくキラキラと目を輝かせて光彦くんと元太くんは私に尋ねました。

使えますが?

とは言えませんので私はとりあえず笑顔を作ります。
といいますか、確かに使えますが。今周りの人から見たら私はとても痛い人ではないでしょうか。

歩美さんの前で以前魔法を使ったことがあったので、それから彼女には魔女のお姉さんと呼ばれています。
なんてことはない子猫が木の上から降りられなくなっていたので誰もいないと思い呼び寄せ呪文で呼び寄せたところを歩美さんに見られました。

ですが相手は子供ですので忘却呪文は使いませんでしたし、他の人には見られていないので問題はありません。
子供でしたら勘違いした子供の微笑ましい光景だとみなさん勝手に思ってくださいますもの。


「魔法ですか。ふふっ、どうでしょう?」


下手に違うなんて言うほうが不自然ですので私はそう誤魔化して、歩美さんの頭を撫でました。嬉しそうに笑ってくださる彼女は本当に可愛らしいです。


「そのようなことより、みなさんはコナンくんを訪ねに来たのでしょう?きっとコナンくんも早くみなさんにお会いしたがっているでしょうから、行ってあげたほうがいいのでは?」

「あっ、そうです!いかないと」

「あいつ俺らがいかないと。今日は蘭姉ちゃんが帰ってくるまで一人みたいだしな!」

「魔女のお姉さん、またね!」


子供とは興味が移るのが早いようで、声をあげるとすぐに私に大きく手を振って毛利探偵事務所への階段を上って行きました。


……それにしても。


あまり彼らとは関わりになるつもりがなかったので構わないかと思っていましたが、そろそろ名前で呼んでもらえるように頼んだほうがいいかもしれません。
魔女だとバレてしまう危険もありますが、それより少しその呼ばれ方は恥ずかしいですから。


「ミリアさんって魔女って呼ばれているんですね」

「っ!?安室さん」

「驚かせてすいません。少し戻るのが遅いから気になりまして」


いつの間にか安室さんは店の外へ出ていたらしいです。
背後にいらっしゃることに気がつきませんでした。


「申し訳ございません」

「いや、今日はお客さんも少ないから大丈夫ですよ。けれど何故子供たちにミリアさんは魔女って呼ばれているんですか?魔女っぽくは見えませんが」

「秘密です」

「………秘密ですか。どうしても?」

「秘密です」


別に適当に嘘をつくことはできますが、下手に嘘をついて矛盾に気が付かれても困りますし。
彼は探偵であり公安であり、それに彼は黒の組織の一員ですから。

なぜ私がそこまで知っているのかというと、テールに調べてもらいました。

安室さんはベルモットさんと一緒に車に乗っていてバーボンと呼ばれていたらしいです。漫画で黒の組織はお酒の名前を使っていましたので、そういうことなのでしょう。
ついでにやけに私に親しくしてくる理由は『思ったより安室透がモテ過ぎたから』だそうです。『安室透に好きな女性を作りファンを減らすためになびきそうにない彼女を安室透の片思い役に選んだ』とベルモットさんに話していたそうです。

それに対してベルモットさんは私のことを「かわいそうな子ね」と言っていたそうです。

同意見です。
そんな理由だったなんて非常に迷惑です。本当に。
何度か助けてもらったことには感謝はしていますが。

それに彼の名前は偽名だったのですね。

少しだけ彼は言葉を促すように見つめてきましたが、私は口を結び話しません。
絶対に話しません。


「…降参です。ミリアさんの理由は聞かないでおきますよ。あまり外にいても怒られてしまいますし。すごく気になりますが」

「理由は大したものではありません。ですが、言わないですけれど」

「ふふ、先手を打たれてしまいましたね。大丈夫、もう聞きませんよ。可愛い魔女さん」


…これは嫌がらせととってよろしいのでしょうか?
悪意のないような笑顔で私を魔女と呼ぶ彼へ私は冷たい視線を送ります。本当に私のことを好きだという演技をするつもりがあるのでしょうか。


いえ、本気で来られても迷惑ですが。


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