出会い事件

諦めなければよかったのでしょうか。

やはりバイト先の二階が主人公のコナン少年の住処なだけあり、何度か警察とお話をすることになりました。
本当にどれだけここは治安が悪いのでしょうか。

ですが私自身は何事もなく過ごしていたある日のこと。新しいバイトの人がポアロにやってきました。
彼の名前は安室透です。
一般的に見てかっこいいと分類される彼は口もお上手で、すぐに女性客に気に入られてしまいました。女性客が目に見えて増えましたし。

私はそんな特徴的な様子の彼が正直一般人に思えなくて、少しだけ警戒をしました。
まあ、そこは間違いなく黒でしょう。
毛利さんに弟子入りしたり、私立探偵を名乗っていますから。これで一般人だとしたら意味が分かりません。

もしも原作で殺人犯だとしたら危ないですし。わざわざコナン少年を見張りに来た黒い組織だったりしたらとても嫌です。


ですので私は彼に他の人と変わりなく接していましたが。

安室さんはなぜかよく訝しむように意味ありげに私を見てきます。
もちろん私は何もしていないのでそんな視線は無視していますが。
話も私からは必要以上に話しかけません。…それはまあ私の場合は大体の人にそうですが。


そんな私に痺れを切らしたらしく、しばらくしてから安室さんはバイト終わりに私へと尋ねてきました。

「僕とイギリスで会ったことはありませんか」と。

もちろんそんな記憶ありま・・・ありましたが、私は彼へ「ないと思いますが」と知らないふりをしました。



彼との出会い。

あれはホグワーツ魔法学校を卒業して、なんとはなしにイギリスのビルの上で星を見ていた時でした。
星の綺麗な夜でした。
私は誰もいない星空の下で物思いに耽っていますと、屋上の扉が急に勢いよく開き、一人の両手で銃を持った若い男性が入ってきました。

それに思わず物陰へと隠れた私は彼の様子を伺うと。彼は低いフェンスへと駆け寄りビルの下を見下ろして苛立たしげに舌打ちをし、手に持っていた銃の口を自分の眉間に当てました。

どうやら自殺現場らしいですと私は気がつき、思わず考えるより先に足が動いてしまいました。
こういう現場を見てみぬふりができる性格ではなかったと私は初めて知りました。
たぶん彼が普通の人間だったことと、年が若かったせいだと思います。


「何をなさっているのですか」

「!?なんでこんなところに女性が」


私は物陰から姿を現し、彼に声をかけてしまいました。

すると彼は誰もいないと思っていたようで目を大きく見開きますと、再び舌打ちをして真剣な表情で私の元までいらっしゃいます。

危害を加えてこないか少し心配でしたが、彼は私のいた物陰へと私の腰に手を回し有無を言わせずに誘導しますと共にその場にしゃがみ隠れました。

警戒しましたが、彼は固い顔をするだけでとくに何もしてきません。


「すまない。誰かを巻き込みたくはなかったけれど、今からでは間に合いそうにない」

「??あの、あなたは何がしたいのですか。それに腰から手を離してください。セクハラです」

「セク!?いや、これは仕方がなくてで。僕は今ある組織に追われて」


彼の言葉は途中で止みました。
屋上の扉の方から銃声が聞こえてきたからです。

彼は私を抱きしめながらも自らも物陰から銃を撃って応戦しています。

……どうやらとても面倒くさいことに巻き込まれているらしいですと私は悟りました。


「君だけでも逃がしたいですが、出来そうにない」


と彼はほぼ私を抱きしめていますので、私の耳元でそうおっしゃいますが。
……あなたが腰に回した手を離してくださいましたら、私は姿現しで逃げることができます。と心の中だけで思いました。

まだ銃を撃ってくる相手に私のことはバレていないようなので今逃げてしまったほうが良いでしょう。
助けようとしてくる彼はきっとそうしたら殺されるか自殺するようですし、口封じの必要もありませんもの。

ですが。


「本当に巻き込んでしまい、すまない」


と苦しそうにおっしゃられては、考えたことを実行したら私はすごくひどい人になります。
やはり罪悪感がありましたので。

私はまず私を抱きしめ真剣に銃撃戦を行う彼へ隠し持っていた杖を向け魔法で眠らせて。
それからいきなり銃弾が止んだことで弾切れかと疑っている屋上へ来た男たちを同じく魔法で眠らせてから、全員に記憶操作の魔法をかけて姿現しで地上へと戻りました。

もちろん私を守ってくれようとしてくださった青年も地上へときちんと逃がしました。


こうして彼らの記憶では私は存在せずに、青年はたまたま屋上にあった丈夫で長いロープを使い逃げたことになりました。

そう。
きちんとあの青年、安室さんへ私は魔法をかけて私に関する記憶を抜いたはずです。


ですのでおそらく薄らと覚えていましても私に会った気がするというのは夢で見たようなあいまいなものなのでしょう。
様子からして私と会ったという核心はないようですので問題はないかと思います。

それよりも、あの青年が安室さんでしたか。
衝撃的な事件でしたが、どちらが変装か分かりませんが雰囲気を変えていたので分かりませんでした。

イギリスで銃撃戦を繰り広げていたということはやはり安室さんは原作にいるキャラクターなのでしょうね。はたして主人公の味方側でしょうか、敵側なのでしょうか。
……黒の組織の一員なのでしょうか。

あまりかかわらないよう本当に気をつけましょう。


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