Greedy resolve

 私は魔法薬学の授業終わりに寮監であるスネイプ先生を通して、ダンブルドア校長に初めて校長室へと呼ばれました。

 …これは、私はどう捉えれば良いのでしょうか。
 ダンブルドア校長が私を呼ぶ理由。そうですね思い当たりますけど。
 行きたくありません。

 ですが、すっぽかす訳にもいきませんので私は校長室へと行きました。


 小説ではお菓子の名前が合い言葉だった校長室は私が行くと普通に開きました。
 ハリー・ポッターの時に合い言葉を言ったのは、もしかしたら彼に合い言葉の種類を教えるためだったのかもしれません。

 私が中へ入りますとダンブルドア校長が机の向こうで椅子に座りキラキラとした瞳を私へ向けてきました。
 私はそんな彼の机から少し離れた前方まで行き、立ち止まります。
 横には止まり木に止まっている赤と金色の羽を持つ不死鳥がいます。不死鳥は初めて実物を見ました。とても美しい鳥です。


 「こんにちは。ミス・ファスト。急に呼び出してしまいすまないのう」

 「こんにちは、先生。いいえ、構いませんが。用事とは何でしょうか」


 早く立ち去りたかったので私はすぐにダンブルドア校長へ用件を促しました。雑談などする気はありません。
 そんな私の考えていることを察しているのでしょう。ダンブルドア校長は愉快そうにと笑うと口を開きました。


 「そうじゃな。ミス・ファスト、君を呼んだのは第二の課題についてじゃ」

 「第二の課題ですか?」

 「そう。あの時はいきなり君を代表選手であるセドリックの人質にするために呼び出して困らせてしまい申し訳なかった。謝るのに時間がかかってしまったが、それを君に伝えたくてね」

 「あのことなら別に構いません」


 …本当に彼は狸ですね。

 この人はそんなことで呼んだ訳ではないでしょう。今はもう対抗試合も終わったのですよ、今更過ぎます。
 私が違うと確信することもおそらくは考えの内なのでしょうが。

 いらいらと校長を警戒しながら見ていますと、横にいた不死鳥がよく響く鳴き声で鳴いたので私は思わず横を見ました。


 「ああ、彼は不死鳥のフォークスじゃ。君は不死鳥について知っているかね」

 「ええ、授業で習いましたし。有名ですもの」


 死ぬ時が来ると炎に包まれまた復活すること、涙が癒やしになることなどはレポートでも出ました。


 「うむ。君が授業を真面目に受けていることは先生たちからも聞いておる。真に君は優秀な魔女じゃ」

 「ありがとうございます」


 一応お礼を言います。
 けれど、そんなことはいいので用事が済んだのでしたら帰りたいです。


 「君の寮監であるスネイプ先生も君のことを褒めておったよ。…君は、スネイプ先生は好きかね」

 「ええ、とても良い先生ですもの。私だけでなくたくさんの人が先生を好いています」

 「それはそれは良いことじゃ!」


 ダンブルドア校長は本当に嬉しそうに目を細めて笑いました。
 ダンブルドア校長がそう言うのを私は複雑に思うのは、私が原作を知っているからですね。
 彼はスネイプ先生を犠牲にしてでもヴォルデモートを倒すのですし。

 それはスネイプ先生も望んでいることなので、恨みはしませんが。
 私もスネイプ先生が嫌いではないので、やるせないです。


 「…ミス・ファスト。運命とは分からぬものじゃな」


 深く、まるで体に染み込む声でダンブルドア先生は呟くように話た言葉に、私は思わず体を震わせました。
 突然の、運命の話。一瞬開心術を使われたかと思いました。

 けれどあれは使われたら分かるはずです。
 ダンブルドア校長ほどの人であっても。


 「いきなり何ですか。先生」

 「この年になると急な話をしたくなるものでのう。驚かせてしまいすまない」


 ダンブルドア校長は何も裏のない世間話のように、微笑みながら話を続けます。


 「運命とは分からぬものじゃ。けれど、どのような運命を辿ったとしても、選んだ道は高名な魔法使いでさえ変えることは困難である。だからこそ」


 「君は、君の選んだ道を歩みなさい。そして、できることならその道が最良の道であることをわしも祈ろう」


 彼はキラキラとした瞳で私をじっと見て言いました。
 それは私を責めるものではありません。けれど、


 …やはり、彼は怖いです。


 それは私が素直に彼の話を聞けないからでしょうか。
 ダンブルドア校長は私に優しく労るような口調で言ってくださいますのに、私は怖い。


 「話はそれだけでしょうか。校長先生」

 「ああ。そうじゃな。年寄りの退屈な話を聞かせてすまぬな。もう行ってくれて構わぬよ」

 「ではそうさせていただきます。失礼しました」


 私は出口へと後ろを振り向く際に一瞬だけ不死鳥と目を合わせて、すぐに校長室を後にしました。

 やはり、私のことをダンブルドア校長は把握しているのでしょうか。
 そうとしか思えない話だったと思います。


 最良の道とダンブルドア校長は言いましたが。

 改めて私はその最良の道を壊したのかもしれないという罪悪感を覚えました。
 私は、自分勝手にも物語の運命を変えたのです。



 …いいえ、駄目ですね。
 最近なんだかネガティブに物事を考えてしまいます。

 私が後悔なんてしてはいけませんのに。

 正しいことではないかもしれませんが、これは私が望んだことです。
 後悔なんてするはずがありません。
 セドリックと改めて話すようになり心から、優しい彼を死なせず良かったと思っています。


 戻らないのでしたら、もっと貪欲に望みましょう。


 これが、最良の道であると。

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