what do you like?
(セドリック視点)
「ミリア、少しいいか。大事な話があるんだが」
「大事な話、ですか?」
僕が校舎の廊下で授業前に会ったミリアと立ち話をしていると、横からバックスがなにやら重い空気を纏いながらミリアへと話しかけてきた。
そんなバックスに今まで僕に向けられていたミリアの視線が移ってしまったので、僕は話の邪魔をしないで欲しいと思うとともに、見たことがないくらい深刻そうなバックスの大事な話とやらが気になった。
……話って、まさかミリアに告白とかじゃないよね。
バックスは基本人との会話に口を挟まないのに、それほど大事な話とは。
僕がまず先に思い浮かんだのはそれだった。
つい最近僕はミリアに告白まがいなことをして友人にまでなれたのだ。すでに友人であるバックスがミリアに告白するなんて僕にとっては脅威でしかない。
僕はだからいつも警戒して何度も彼に彼女への恋愛感情がないことを確認しているけど、それが本当だと断言できるほど僕は彼のことを知らない。
「話ってここではできないことなのかな?」
僕は引きつりそうになる笑顔でバックスへと尋ねると、バックスは僕へと分厚いメガネごしの視線を移した。無表情なせいで彼が何を思っているのかは僕には分からない。
「そうだな。ここでは……、いや、この際ディゴリーでも構わないか」
……愛の告白を?
ずっとバックスの大事な話を告白だと僕は思いこんでいたので、少しだけバックスの言葉に呆気にとられてしまった。勝手に思っておいてなんだけど、その想像は気持ち悪かった。
顔をしかめた僕を気にすることなく、バックスは続けて僕たちに尋ねる。
「二人は、猫は好きか?」
猫?
「好きですが、それがいかがいたしましたか?」
間をおかずに答えたミリアの言葉にも僕は驚いた。
正直僕はミリアのことをずっと見ていたけれど、ミリアの確信の持てる好きなものを一つも知らなかったから。まさかこんなタイミングで知ることができるなんてと嬉しいと思った、が。
だけどバックスからの質問から知ったことが少し複雑だ。いや、嬉しいけれど。
「ミリアは猫が好きなのかい?」
「ええ、可愛いですし」
僕が聞くと少しだけ顔の色を染めて恥ずかしがりながらそっぽを向いてそう言う君の方がかわいいと僕は思う。
「……俺の家で飼っている愛猫が子供を産んでいたらしくて、もらってくれる人を探しているんだが。もしよければいらないか?黒と茶色がいる」
「子猫ですか。そうですね、テールに相談してみる必要がありますが。一匹でしたら私は構いません」
「僕は梟を飼っているから無理かな。力になれなくてごめん。そうだ、良ければ僕もハッフルパフで聞いてみようか?」
「そうだな、そうしてくれたら助かる。ありがとう、いきなりで悪かった。さっき里親を探すように親から連絡がきてもう学校も終わりだから焦っていた。ミリア、後で子猫の写真を送る。話の邪魔をした、失礼する」
どうやら本当にそれだけだったようで、バックスは用件だけ言うとその場からすぐに去っていった。用件がそれだけで良かった。
僕は疑ってしまったことにバックスへ罪悪感を抱いたけど、今はせっかくのミリアと二人きりなのだし、すぐに思考を切り替えた。
「ミリアは動物が好きなのかい?」
「ええ、嫌いではありません」
「そうなんだ。あの、良ければだけど僕はミリアの好きなものってまだよく知らないから知りたいな。教えてくれないかな?」
僕の質問にミリアは困ったような表情をする。以前まではいつも困った顔に嫌そうな表情が混ざっていたが今はそれがない。
ただ単純に困った顔を見ることができるようになったことでさえ、僕にとっては嬉しい。
「好きなものですか。いきなりは出てきませんが。動物は好きですね。そういえば、私もセドリックの好きなものはクィディッチしか知りません。セドリックこそ何が好きなのですか?」
「そうだね。クィディッチも好きだけど、僕も聞いておいてなんだけどいきなりだと出てこないものだね。僕も動物は好きだよ。それにもちろんミリアのことも好きだよ」
「っ、そういうのは結構です」
本心なのに。
そもそもクィディッチを始めたきっかけもミリアに僕を知ってもらいたかったからだし。もちろんクィディッチも好きだしチームメイトも大切だけど。
恋しいと思うものとしてはミリアには敵わない。
僕の言葉にミリアは頬を赤く染めながら怒るけどそんなミリアも愛おしい。
一緒に話すようになってから、普段は冷静な彼女が取り乱すところを見られるようになった。今まではこんな話をしようものなら氷点下の眼差しで鋭く冷たい言葉で拒絶されていたから。
もちろんそんなミリアも可愛いと思うけど、やはりひどい拒絶をされなくなったことは夢みたいで。
僕は今、すごく幸せだけど。
ミリアに僕を好きになってもらいたいと、もっとを求めてしまう僕は罪深いのだろうか。
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[mokuji]