myfriend2

 温室の近くの深い緑色の草原にセドリックと一緒に行ってみますと、確かに妖精の歌声が静かに、それでいて凛としてハープ草の音色と合わせて歌を奏でていました。
 妖精は姿を見せませんが、やはり歌声から察するに花妖精の仲間なのでしょう。花妖精は汚染されていない土壌の植物に住みつく妖精です。妖精といえば可愛いものを想像しますが花妖精は赤カブのような容姿をしているらしいです。残念ながらこの魔法世界は可愛い妖精の割合は少ないです。
 いえ、しもべ妖精など見方を変えれば可愛いですが。

 私とセドリックは草原を見下ろせるなだらかな丘のベンチへ座りました。
 誰かしらいるのではと思いましたが周りには人の気配はありません。


 「綺麗ですね」

 「そうだね」


 セドリックと私は静かに音色に聞き入りました。
 時々テンポや曲が変わるのできっと長くここで聞いていても飽きないと思います。

 私はホグワーツの外でこんな風に過ごすのは初めてです。私は本当に校舎にこもりきりでしたので。
 この音色を知らなかったのは少しだけ勿体無いと思いましたが。
 以前までの私でしたら、例えこの場所を知ったとしても興味を持たなかったはずです。今でさえ、セドリックが誘って下さらなかったらわざわざ来ませんでしたし。


 夏が近づいているのでしょう。夜が近いこの時間になっても肌寒さをあまり感じなくなりました。
 奥に見える入ってはいけないと言われている禁じられた森も青々と茂っています。

 もう少しで夏休みです。
 いつもでしたら待ち遠しいと感じていた夏休みが今はあまり来て欲しくないと思ってしまいます。やはり復活したヴォルデモートが気にかかりますし。

 私はヴォルデモートが怖いのでしょうか。

 彼に関するたくさんの話を私は聞いてきましたが、今まではただの物語の登場人物と割り切っていたところがありました。
 けれど、もうここは私にとって物語ではありません。
 横にいるセドリックだって現実です。


 「ねえ、ミリア」

 「はい」


 私はセドリックから話しかけられて思考を中断しました。
 草原からセドリックへ視線を移します。


 「もし良かったら来学期も一緒にここに来ないかい。僕はハッフルパフだからこういう植物の情報はよく耳に入るから、他にも穴場の時期を知っているんだ。僕たちは来年が最後だし、最後に君と過ごすことができたら嬉しいな」


 セドリックは緊張しているのか頬を上気させながら私へ提案しました。
 来年が最後。最後です。


 「そうですね。また誘っていただけたら私も嬉しいです」

 「本当?良かった。すごく嬉しいよ」


 私は知っている来年のことなど忘れたふりをしてセドリックの言葉に頷きました。
 私の返事に言葉の通りセドリックはとても嬉しそうです。彼は素敵な方なのでその様子は私にはキラキラと眩しく見えます。

 ホグワーツは来年で最後です。
 けど今それを思うと少し悲しいと感じてしまうなんて、私は、変わりました。


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