太陽を独占したかった
どうしよう竹谷、月が見えないよ。
街頭もあまりない暗い暗い道路で、眩しく光っている自販機に小銭をいれた。
カフェオレがのみたかったのに赤色ランプで売り切れと印されたボタンに舌打ちをひとつ。代わりにミルクティのボタンを押した。
プルタブを引き、一口飲んで溜め息。ひどく甘ったるくて、今のあたしの心境とはかけ離れた味がした。
空を見上げる。雲のベールを纏っている月と目に入った。太陽の力を借りて輝く月は、なんでこんなに儚く美しいんだろう。
自分の体を見る。黒のワンピース姿のあたしは、なんて闇が似合うのだろう。
太陽の光を受けても綺麗になんて輝けないあたしは、酷く見窄らしい。
竹谷の、太陽みたいな笑顔はあたしの見窄らしさ浮き彫りにする。
好きなんだよ、本当に。竹谷の事が、
万人に向けられる太陽のような笑顔を、閉じ込めて独り占めしたいだなんて思う私の心の卑しさは救いようがない。
ミルクティを口に含む。甘い味は、夕方に竹谷の横に居た可愛らしい女の子を思い出させた。
あたしは冷ややかな視線を、残ったミルクティに送り溝へと捨てた。
竹谷の笑顔を真っ直ぐに受け止めて輝く彼女は、月の様に美しく、とても妬ましかった。
望んでもいないのに、涙が零れる。それを手で拭えば、マスカラとラインで黒く濁った水滴が手に残った。
全てが汚れているあたしは涙までも醜くなってしまったようだ。
後ろから自転車を漕ぐ音が聞こえる。避けようと隅っこへと体を寄せた。
「あれ…☆?」
心臓が止まる。そしてドクドクと壊れるぐらいに全身へと血液を送り出す。
「た、けや…」
必死に涙で濡れた頬をこする。こんな汚いもの、竹谷には見せれない。
「泣い、てる…のか?」
自転車を止めて、竹谷があたしのすぐ後ろに立つのを背中で感じた。
「なんでも、ないから…ほっといて。」
口から出るのは可愛くない言葉。そんな口を覆いたいのに、今は汚れた涙を拭うことしかできない。
背中と首周りに熱い体温を感じた。一瞬遅れて、竹谷があたしを抱きしめたんだと理解した。思わず振り向こうとしたが、力で抑えこまれてしまった。
「悪い、泣き止まし方分かんねえ。」
困ったように竹谷が笑う。
竹谷を想って泣いているのに、抱き締められちゃ止まるものも止まらない。
「たけ、や…。ごめん、ありがと、」
その後に続く筈だった、好きという言葉は、闇と嗚咽が隠してしまった。
お願いだから、今だけは太陽のような笑顔をあたしだけのものにさせて。