夕暮れエスケープ



夕闇が迫る。

早く、早く。あたしを隠して。今からのあたしには似合わないから。




「失礼しまーす。」


ドアを開ければびくりと驚く背中が見える。振り返るポロシャツ姿の土井先生。不意打ちを食らった先生の表情に思わず笑みが零れる。


「あ…あぁ、☆か。プリントは終わったか?」


先生の机にひらりと文字のびっしり詰まったプリントを広げた。


「はい、あたし頑張ったよ。えらい?」


一通りプリントに目を通し終えた先生があたしの顔を見て、溜め息を漏らす。


「完璧なんだが、なぁ…もうちょっと私の授業を真面目に受けてくれないか?」


困り顔の先生。あたしがその表情を大好きって知っててやってるの?


「無理ですよー。だって授業中は先生見つめるのに必死だもん。」


2つに縛ってある髪の毛先を、ちょいちょいと弄ぶ。あたしの返答に頬を赤らめて恥ずかしがる先生は、全然年上に見えない。


「あ、のなぁ…。大人をからかうもんじゃないぞ。」


座ったままの先生の腕に、そっとあたしの腕を絡ます。
「あたしは本気ですよ。」


耳元でそっと呟けば、先生は耳まで真っ赤にして焦る。それでも無理矢理絡めたあたしの腕を振り払おうとはしなかった。


「先生、あたし先生が好きなの。本気だよ?子供だからって言ってはぐらかさないで。」


絡めた腕の力を強める。先生の腕が、躰が強張る。ちらりと横目であたしの顔を伺う先生の瞳を、あたしは真っ直ぐに見つめる。なんて可愛らしい顔をするんだろう。



「…後悔、しないか?」


空いている手で頬を掻いて、先生が消え入りそうな声で呟く。



「後悔なんてするわけないよ。」


首筋に顔を埋めて先生の匂いを鼻腔からから全身へと循環させる。


ふと窓に目を向ければ、世界は闇に包まれていた。もうあたしたちを照らすものはない。



もう、先生と生徒の時間は終わった。今からは男と女の時間。



先生があたしを抱き寄せる。ドクドクと聞こえる心臓が心地良い。あたしは顔を上げる、真っ赤な顔が正面から見れた。ぎこちなく顔を近づける先生に、あたしは喜んで目を閉じる。待ちわびた唇の感覚は味なんてするはずがないけれど、とっても甘かった。もう離さない。離してなんか、あげない。


ねぇ、先生?この夜に隠れて、もっと濃密な時間を共有しませんか?

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