縋ったのはどちら?
私は縋らない。
私は誰かに縋るほど弱くなんかない。
今日も1人。
どうせあいつからも連絡など来ないからと、私は真夜中のコンビニで煙草とカフェオレを買って廃れた公園のベンチに腰を下ろした。
風呂上がりの湿った髪は外気に触れてどんどん冷えていく。
温かいのは唯一揺らめく煙草の火だけ。
その赤をぼーっと見つめているとポケットの携帯がブルブルと震えた。携帯を開くと、雷蔵からの着信。
「もしもし?」
「こんな夜中に何してるの?」
声が、耳元と後ろの方から聞こえる。振り向けば携帯を耳に当ててにこりと笑う雷蔵が居た。
「べつにー、寝れなくて暇だから一服。」
横にずれて雷蔵の座る場所を空け、ジーンズのポケットに携帯を閉まった雷蔵が隣に腰掛ける。
「雷蔵こそ珍しいね。こんな夜中に出歩くなんて。」
雷蔵はポケットを漁り、くちゃくちゃになった煙草ケースを出してよれよれの煙草を加える。だからいつもボックスを買えっていってるのに。
「僕も寝れなくて暇だったんだ。★がいて良かった。」
煙を吐きながらこちらを向いて雷蔵が微笑む。空いている手で私の湿った髪をするりと梳いた。
「ちゃんと乾かさないと風邪引くよ?」
髪の毛から、雷蔵の体温が伝わる。その温度がとても心地良くて、そっと目を閉じる。
「三郎は、今日も来なかったんだね。」
すごく心地良かったのに。雷蔵の一言で、私の心はすっと冷えていく。
「また他の女の所じゃない。」
雷蔵の梳く手を払いのけるように、自分の髪を耳に掛ける。
「知ってるのに、どうして三郎に言わないの?」
どうして、だなんて意地の悪い質問。雷蔵はその答えなんて見抜いている筈なのに。
「三郎の隣に★以外の女の子が居るのに、幸せだなんて思える?」
そんな訳、ないじゃない。
「★、★は強がりすぎなんだよ。もっと縋ってみればいいじゃないか。」
その言葉に、雷蔵へと視線を向ける。おもむろに、雷蔵が携帯を取り出して誰かへ電話を掛け始めた。
「あ、もしもし。三郎?女の子の声が聞こえるみたいだけど、もちろん★じゃないよね。」
三郎と言う言葉に、全身を巡る血液が一気に冷えるのを感じた。
「実は今、★と一緒に居るんだけど。他の子と一緒に居るなら★はもういらないよね。」
隣に本人が居るというのに、いらないだなんて酷い言いようだ。
「★は僕が幸せにするから。三郎は他の子と楽しくやってなよ。…はっ、言い訳なんて聞かないよ。僕も、★も。じゃ、ばいばい。」
通話も、電源も切って、雷蔵が携帯をしまう。
呆然と雷蔵を見つめている私に、雷蔵が笑いかけて私の手を引いた。
「勝手な事したけど、謝らないよ。」
ここは泣くべきなのか、罵るべきなのか、三郎に連絡すべきなのか。色々頭を巡るが答えは出てこない。
雷蔵が私を抱き寄せる。三郎にも、他の誰にもされた事ないような優しい抱擁だった。
「今は、このまま僕に縋ってよ。」
優しい抱擁なのに、こんな悲しい声色で囁く雷蔵はずるい。
ずるいと思いながらも、私は雷蔵の背中へと縋るように腕を回していた。