賽は投げられたようだ。
昼休み、僕らはいつもの階段に集まりお弁当を広げていた。今日の帰りにカラオケでも行こうかと話をしているとパタパタと走ってくる音が聞こえる。耳をすまして音のする方向へ目を向けていると、★ちゃんが現れた。
「ちょっと左門!今日の昼休みは委員会あるっつったっしょ!」
何忘れてくれてんだ!と吠える★ちゃんに、すまん、忘れた!と清々しく謝る左門。
「おぅ、★。お前今日暇ならカラオケ行くか?」
作兵衛が★ちゃんに問い掛ける。★ちゃんは同じ中学だったので帰りが重なっては一緒に遊んで帰るような仲だ。
「あ、行く行…かない。」
どっちだよ、と藤内の突っ込みが入る。
「ごめん、今日はさきちゃんたちと滝先輩の練習応援することになってるの。」
滝先輩という言葉に孫兵まで固まり★ちゃんをみんなで凝視する。★ちゃんの言った滝先輩という人をみんな想像しているんだろうけど、まさか。
「滝って、平先輩の事?」
みんなが呆然と固まっていたら、孫兵が確認作業をしてくれた。
あっさりとそうだよ。と告げた★ちゃんにイチゴオレを飲んでいた三之助が吹き出した。
「ぶはっ…!う、な…なんで滝先輩の応援なんか行くんだよ。」
平先輩は三之助の委員会の先輩であり、部活の先輩でもある。
三之助がイチゴオレを吹き出すのも無理は無いと、左門以外の誰もが思った。三之助は中学の頃から★ちゃんが好きなのだから。
「え?滝先輩かっこいいじゃん。ナルシストで自慢話ばっか自分に酔いまくっててうざいけど。」
「ねえ★、平先輩を貶してるの?」
悪口としかとれない言葉に藤内がまた突っ込む。★ちゃんはまさかと首を振った。
「でも、有言実行って言うの?出来ない事も影で頑張って出来ちゃうのがすごいからさ。」
たしかに成績も優秀だし運動も出来る平先輩はすごい。ナルシストっぷりもすごいけれども。しかし、しらなかった。平先輩は人知れず努力をしていたのか。
「なんだ!★、平先輩が好きなのか?」
率直すぎる左門が、質問という爆弾を落とした。
みんなが固唾をのんで見守る中、★が首を傾げる。
「えー、どうだろう?滝先輩は嫌いじゃないし、優しいとこあるし話すと挙動不審で可愛いからなー。これって好きなうちに入るのかな…。いや、でも好きなのか?えー、好きでもいいよね…うん。好きかも!」
★ちゃんが想いを確信したと同時に、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
「あ…次の授業、私と左門は移動じゃん。左門、行くよ!」
じゃ、また後で。と左門の襟首を掴んで、★ちゃんは去って行った。
「なぁ作。俺、今日のカラオケパス。」
残された僕ら5人の静寂の中で、三之助がぼそりと呟いた。
「んぁ?別に構わねぇけど。どした?」
「ちょ、部活行ってくる…。」
みんなで三之助を見つめる。三之助の目が、怒ったような…いや、闘志に燃えているような鋭い目つきをしていた。
意味を理解した作と藤内と僕が目配せをしている中、孫兵が静かにお茶を啜っていた。