夕立に紛れた思惑



突然の夕立に襲われた。僕の家が近いから、と勘右衛門が★の手を引っ張れば彼の意図など知りもしない★こくりと頷いて勘右衛門の手を握り返した。


★は走るのに必死で気付いてはいないだろう。勘右衛門の口角が上がっていたことを。


「ちょっとタオル持ってくるから、靴下脱いで待ってて。びしょびしょでしょう?」

勘右衛門が奥へ進んで行く姿を見送って、★は言うとおりに靴下を脱ぐ。ぐっしょりと濡れた不快な靴下を脱いだところで、戻ってきた勘右衛門がタオルを差し出す。

一通り滴る水滴を拭き取るが、制服は湿ったまま★の肌に纏わりついていた。

「とりあえず、僕の部屋で着替えようか。服貸すよ。」


初めて入る勘右衛門の家に戸惑いつつも、★は後ろ姿を追って勘右衛門の部屋に入る。男の子の部屋のわりに小綺麗だが、勘右衛門の部屋だと意識すると、ドキリと★の心臓が跳ねた。

「服これでいいかな?これなら着慣れてるしいいよね。」

そう言って勘右衛門が★に渡した服は、高校の体育の授業で着慣れた体操服だった。

体に当ててみると、★が普段着ている体操服よりか幾分大きい。

「僕、ちょっと飲み物取ってくるね。あと、廊下に制服置いといて。乾かしとくから。」

普段のほほんとした勘右衛門からはあまり想像のつかないテキパキとした行動に戸惑いながらも返事をして、勘右衛門が出て行った所で濡れた制服に手を掛ける。

制服を脱げば、どさりと水分を含んだ分重くなった制服が床へと落ちる。そして、スカートも同様に重力に従って落ちた。ふと、部屋の脇に置いてあった全身鏡に自分の姿が写っているのをみて、★は顔を赤らめた。
他人の部屋で、しかも彼氏の勘右衛門の部屋で下着姿になっている自分が酷く恥ずかしい。慌てて渡された体操服に袖を通す。やはり自分の着ているものより大きく、腿まで隠れてしまった。ふわりと香る勘右衛門のにおいに思わず笑みがこぼれた。


「★、着替えれた?」

ノックの音と共に勘右衛門の声が聞こえ、ドアを開けようとする★だが、あるものが足りない事に気付いて開けるのを躊躇した。

「勘ちゃん、待って。ズボンは?」


ドア越しに勘右衛門に尋ねると、何故かドアが開いた。★が驚いて固まっていると、★を眺めて勘右衛門がにこりと笑った。


「丈長いからズボンいらないじゃん。べつに出掛けるわけでもないんだしさっ。あ、これジュースとお菓子。制服持って行くね、すぐ戻るから。」

ジュースとお菓子の乗ったトレイを渡されて制服を持って行かれた★は仕方なく、テーブルにトレイを置いて勘右衛門が戻るのを待った。


「お待たせ。後は制服乾くまで遊ぼうよ。」

★の制服を乾かしに行ったついでに、Tシャツとジーンズに着替えたらしい勘右衛門が、★の隣に座ってにっこりと笑いかける。

笑顔は勘右衛門のトレードマークなのだが、何時もと少し違う笑みに★が戸惑っていると、背中に衝撃を感じた。★はいつの間にか天井と勘右衛門を見上げる格好になっていた。


「勘、ちゃん?」

ぽかんと見上げる★の顎をくいっと持ち上げ、勘右衛門が厭らしく笑った。

「★、そのかっこたまんない。いっぱい愛してあげるから、いっぱい可愛い声で鳴いてね。」
★の抗議の声は、夕立の雨音にかき消されてしまった。

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