振り向かない君に鉄拳を
昼休み、ハチたちと購買でパンを買って教室に戻ると窓際の俺の席を、ある女子が陣取っていた。わざわざ双眼鏡まで使い熱心に何かを眺めている。
見慣れた後頭部を、ありったけの憎しみを込めて平手で勢いよく叩くと実に良い音がした。
「いっ…!たー。鉢屋っ何すんのさ!」
後頭部を抑えて、俺の席に座っている☆が振り返って俺を睨み付ける。
「うるせえ!俺の席を勝手に陣取るな!今から飯食うんだよ、邪魔だ。どけ!」
ここ最近、毎日のようにこのやりとりをしている。先に席を確保したハチと雷蔵はその光景を苦笑いして見ていた。
「うっさいなー。席の一つや二つでガタガタとー。床でも何でも座れるっしょ!ここじゃないと愛しの留先輩が見えないの!私の恋路を邪魔すんな!」
確かに俺の席は窓際の一番後ろで、窓から校内が一望できる。だからと言って何で俺の席なのに☆に譲ってやらなきゃいけないんだ。しかしながら毎度この席を譲らない☆に舌打ちをして空いた椅子を引きずってパンを開ける。
「三郎、★ちゃんには何言っても無駄だって。いい加減諦めなよ。」
雷蔵に宥められるが俺の腹の虫が納まることはない。双眼鏡から熱心に運動場を眺めている☆にもう一度鉄拳を振りかざそうとしたらハチに止められた。
「まあまあ、そうカリカリすんなって。飯食っちまおうぜ?つーか★飯食ったのかよ。」
ハチが☆に問いかけるが、あいつは双眼鏡から目を離さずに食満先輩を眺めていた。
「ご飯は留先輩を愛でながら食べる。留先輩を見ながらだったら白飯でも3杯はいけるね!あー、まじで格好良すぎる!もう留先輩の存在が罪だわ。」
あ、初等部の子達と戯れてる!と窓から身を乗り出しているこいつの背中を思い切り突き飛ばしてやりたい。
「でも、★ちゃん1週間前に食満先輩に告白してオッケーもらったんでしょう?わざわざ双眼鏡まで使って眺めなくてもすぐ近くで見れるでしょ。」
そうだ。こいつは食満先輩に告白をして付き合う事になったのだと、ご丁寧にわざわざ真夜中に電話で俺に報告してきた。
「うん、オッケーされてもうウハウハなんだけどね。2人の時の留先輩もすっごくいいんだけど、自然体で無防備な留先輩も見ていて全く飽きなくて。あー!鼻の下のばしてデレてる先輩もおいしそう…。」
ショタコン疑惑(俺は断定しているが盲目な女たちはただの子供好きだと勘違いしている)のある食満先輩も末期だが、それを見てうっとりしている☆も相当末期なんだと思う。
そんな光景に頭を抑えつつ、今日も俺に振り向いてはくれない☆の頭をもう一度殴ることにした。