私のハートに火を付けた。



あくまでお話ですので喫煙を推奨するものではございません。ご理解のある方のみご覧ください。












静まった校舎を見つつ、用具倉庫にもたれかかって一服しているとやんちゃな後輩が現れた。


「★先輩。それ、一本くれませんか?」


どこの誰とやってきたかは知らないが、口元に痣をつけて汚れた学ランからパーカーを覗かせた富松が私の隣にしゃがみ込んできた。


「ありゃ、とまっちゃん誰にやられたのよ。」


煙草は口にくわえたまま、富松の口元に触れる。反射的にびくりと体を揺らし顔を真っ赤にさせ、慌てて私から富松が飛び退いた。


「いっ…いいじゃないっすか!何処の誰だって…。」


顔が赤くなったのは傷を触られたせいじゃないんだろう。口元を弛ませていると、富松がむすくれた。

「ごめんごめん、びっくりしたよね?てかとまっちゃんって煙草吸うっけ?」


スカートのポケットからボックスを取り出したが富松に疑問を投げかける。

「いや、初めて吸うっす。」


ボックスを開けて富松に差し出すと一本抜き取り口にくわえた。


「あら、とまっちゃんハジメテなの?じゃあ私が優しく教えてあげなきゃ・ね?」


するとまた顔を真っ赤にして茶化さないでくださいと噛みついてきた。


「じゃあ、火ぃ点けてあげるからちょっと吸って。」


ボックスの中に入っていたライターを取り出し、火を点ける。途端に富松が咽せこんだ。


「とまっちゃん、吸いすぎ。最初は火ぃ点けるだけだからそこまで吸い込むと咽せるよ。」

未だに咽せている富松の後ろに回り、ポンポンと背中を叩く。


「とまっちゃんにはまだ早かったかな?」


そう言って笑えばまた富松が食ってかかってきた。


「べっ…なっ、全然平気っす…。」


余裕なんて無いくせに、強がる富松が可愛くて頭を撫でるとやめてくださいと言われてしまった。

「なんか、嫌な事でもあった?」

横に座る富松の顔を覗きこむ。きっと友達思いの富松の事だから、誰かの悪口なんか聞いて喧嘩をしてきたんだろう。今時の不良とは違う、硬派なヤツだから。


「…あの、★先輩とおんなじ学年の野郎が…何か、先輩の事言ってて、すげーカチンときちゃって。」


段々と尻すぼみする言葉。富松の友達の事だと思っていたが、意外にも私の事だと知って少し驚いた。私の陰口なんていつもの事なのに、富松の優しさが心にじんわりと染みた。


「私の事なんていいのに、こんなボロボロになっちゃって…。」


ズボンの裾に付いている汚れを払おうとすると、いきなり富松が立ち上がった。


「先輩の事だから…!だから俺、我慢出来なかったんすよ!」


真剣な富松の表情を、私はただ見つめる事しか出来なかった。声を荒げてしまってばつが悪いのか、富松は私に背を向ける。

「すんません、先輩が悪い訳じゃないのに。」


私は煙草を捨て、富松の横へと並ぶ。


「ありがと、ね。さくべ。」


富松がこちらを振り向く瞬間、柔らかな頬に唇を当てる。


「な、なななな…ぅえっ!今っ!」


「ちゅーだけど?」


今までに無いほど肌という肌を真っ赤にさせた富松が、頬に手を当てて言葉にならない言葉を発している。


「ほら、もう火がフィルターまで来てるから煙草捨てちゃいな。んで、奢ってあげるからマックでも行こう!」



富松の腕を掴み、自転車置き場へと引っ張っていく。


やんちゃで可愛い後輩が、彼氏になるまで後少し。

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