じゃあ、またね。



携帯を開くと着信が残っていた。画面に現れた名前に思わず心臓が揺さぶられた。暫く考え、携帯を耳に当てた。出てほしくない、出てほしくはないが声が聞きたかった。


「もしもし。」


あぁ、出てしまった。それでも耳に響く声は前と変わっていなくて、嬉しいような安心したような気がした。


「もしもし?鉢屋、久しぶり。着信あったけどどうかしたの?」


「あー、特に無いけど久しぶりに電話してみただけ。」


なんだそれ。と返し、聞かれてもいないのに鉢屋と私の共通の友達の近況を伝える。


「まじ、ハチ振られたの?」


「いやー、良い感じだったんだけどねー。私動物嫌いなの、だって。ハチにしたら致命的だよね。」


喋り方も笑い方も私の記憶に残ったまま。昔に戻ったような錯覚が起きた。


「あ、そう言えば今度そっちに帰る。」


「へ?どうしたの。」


「彼女が帰ってきて欲しいって言うからさ、丁度休みとれたし。」


あぁ。そういう、事か。

「そっかそっか、会えないんだから帰ってきたらたくさん構ってあげなきゃねー。」


そのままたわいの無い話をして、気づけば1時間も話していた。


「もうこんな時間か、じゃあそろそろ切るな。」

「うん、ばいばい。」


「ん、またな。」


そのまま、耳から聞こえてきた無機質な通話終了音を、ただ黙ってきいていた。そして携帯を閉じる。


「またな…か。」


また、なんて来なければいい。あるはずの無い期待が私の心を傷つけるから。

そうは思っていても、またを期待してしまう私を誰か笑ってやってくれないだろうか。

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