平凡な風景を彩る
ふと、窓から見える風景を覗いてみた。
穏やかな陽気に、通りの道路にはせわしなく車が走っている。道沿いには自転車に乗っている主婦や、散歩中のおじいさんと犬が歩いている。
世間は平凡に時を刻んでいた。
「★。」
なんら変わりのない風景から視線をずらすと、普段よりも幾分か緊張気味の兵助と目が合った。
「何、兵助。緊張してるの?」
薄く笑うと、少しだけ眉が寄った。そして兵助が椅子に座っている私に近づく。
「俺だって緊張ぐらいするよ。★はしてないのか?」
そう問われ、私は少し考えて頷く。
「だって、見てみなよ。日常的な風景じゃない。」
そう言われればそうだけどな。と、兵助も窓に目を向ける。
「なぁ、★。幸せになろうな。」
遠くを見つめながら、独り言のように呟いた兵助の言葉に私は頷くと、ドアがノックが聞こえた。
「そろそろお時間です。」
白のタキシードを着た兵助が、すっと手を差し出す。その手をとり、ドレスの裾に気をつけて立ち上がった。
もう一度、窓の風景を見る。
平凡な風景が、少しだけ輝いているようにみえた。