ばいばいサンクチュアリ
雷蔵に呼び出された。話したい事がある、と。
あぁ、この時が来てしまった。私は遂に逃げ場をなくす時が来た。
日が沈んだばかりの公園からは子供の声は消え、街頭だけが私の座るベンチを細々と照らしている。
「★、ごめんね。まった?」
マフラーに顔をうずめた雷蔵が申し訳なさそうに走り寄ってきた。私はさっき来た所だといい、雷蔵が私の隣へと座った。普段穏やかな雷蔵が今日はやけに忙しない。話を切り出したい所だけれど、私の口はそれを躊躇った。
「あの、さ…。今日は突然ごめんね、★に伝えたい事があるんだ。」
ぽつり、ぽつりと言葉を落としていく雷蔵を盗み見ようと視線を向ける。そこには、今まで見たことのないほど真剣な瞳に捉えられた。そのまま視線を逸らすことが出来ず、私はただ雷蔵を見つめる事しか出来なかった。
「僕、前から…★の事が…」
嫌だ、やめて。聞きたくなんてないの。私はこのままで居たかった。
いつも傷ついては雷蔵の下へ逃げて、どろどろに甘やかされて、いけないとはわかっていても雷蔵は優しいから、とそこに漬け込んで。雷蔵の甘さが、私への好意だという事に気付いていながら私は雷蔵に依存してきた。その報いが、今来たんだ。
「★が、好きなんだ。」
合わされた視線を振り切る事も出来ず、私は雷蔵を見つめたまま涙を流した。
その涙の意味を、雷蔵はもう知っているんだろう。
「雷蔵、私…」
ごめん、と言う前に雷蔵に抱きしめられた。息も出来なくなりそうな抱擁。
「うん、わかってるよ…。★が僕のそばに居た理由。でもどこかで断ち切らなきゃ、きっと僕も★もこのままの状態で居る事になる。それは、あまりにも辛いから、さ。」
雷蔵と私の距離が離れる。私の目に映ったのは泣きそうに歪められた雷蔵の、精一杯の笑顔だった。
「ばいばい、★…。」
待って、行かないで。
伸ばした腕は、雷蔵を捕まえる事など出来ず空を掻く。
「ばいばい、雷蔵。」
私の声と醜い嗚咽は、通りすがりの車の音にかき消された。