にっこり わらって さようなら



タカ丸さんとは実に気が合う。大学の一学年下で年は一個上という何とも複雑だが、連むようになるまでにさほど時間は掛からなかった。俺が合コンをセッティングすれば快く参加してくれるし、タカ丸さんのセッティングする合コンはいつも当たり。俺が女の子と2人で遊びたい時は、俺の彼女を構ってくれたりするのでタカ丸さんと俺の関係はすこぶる良好、だと思っていた。


そう、ついさっきまでは。


携帯、持った。鍵、持った。財布も煙草も、ホテルのメンバーズカードも持った。そして★の事もタカ丸さんに頼んだ。意気揚々と俺は車に乗り込み、マキちゃんを迎えに行く。何時ものように、タカ丸さんには今日の場所も伝えたので鉢合わせになることも絶対ない。★には悪いが、これも男の好奇心だ。



待ち合わせ場所に車を止め、マキちゃんにメールをする。コンコン、と控え目に窓ガラスを叩かれてドアが開く。可愛らしいミニスカートとニーハイブーツで胸元が強調されたVネックのニットにゆるふわカールの髪の毛で登場したマキちゃんかに、にっこり笑って近くのカフェに車を走らせる。


窓際の席で、たわいの無いお喋りに我慢。この先にはイイコトが待っている。空腹の時こそ飯だって上手いものだから。ふと右ポケットが震える。マキちゃんに断って携帯を開くと、それは★からのメールだった。



sub
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今日、不破くんと出掛けてるんだよね?



sub Re:
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そうだよ。良い店見つけたから★と来る前に下見しておこうと思って。




sub Re:Re:
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そっか!

ところで、三郎くん。

いつから不破くんは女の子になったのかな?



そのメールに、俺は固まった。待て。どういう事だ?


店の中を見渡す。俺と目線の合うのはマキちゃんだけだ。そして窓から道行く人々に目を向ける。目を凝らしていると、一人の女の子と目が合った。紛れもない、俺の、彼女。


★が携帯を耳に当てる。数秒して俺の電話がまた震えた。心臓は早鐘のように鳴り響き、俺は通話ボタンを押した。



「三郎、可愛い女の子だね。私、今からタカ丸さんと映画行ってくるね。それじゃ、楽しんで、さようなら。」


右耳から会話終了のコールが流れる。俺は唖然としたまま去っていく★を見つめていた。


マキちゃんにどうしたのか聞かれるが今はそれどころではない。マキちゃんに一万を押し付け、慌ててカフェから飛び出して★に電話を掛ける。しかしご丁寧にも着信拒否までされたようで、★が出ることはなかった。


それならば、と今度は別の携帯に掛ける。すると呑気な声が聞こえてきた。


「もしもし?タカ丸さん!どうゆう事だよ!」


受話器の向こう側の人物は一体何をしているんだ。


「あ、もう★ちゃんとは会えたみたいだねぇ。実は僕、前から★ちゃんの事好きだったんだよね。だから鉢屋くんが邪魔だったわけ。んで鉢屋くんに合わせて色々と行動して、信用してもらえて★ちゃんと遊ばせてくれたでしょ?鉢屋くん、遊びたい盛りだから。★ちゃんは僕がもらうね。あ、★ちゃんだ。それじゃ、鉢屋くんばいばーい。」



また虚しく響く通話終了の合図。


俺は、斎藤タカ丸にしてやられたのだった。



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