KYハニー



新年早々付いていない。

右手に収まった小さな手をちらりと見る。温かな手は離すまいと俺の親指をしっかりと握って、いつ転けるものかと心配になるような覚束ない足取りで歩いている。姉貴が出掛ける前、2つに結んだ髪の毛が歩む度に揺れていた。隣に気づかれないよう俺はそっと溜め息を吐いた。


そもそも姉貴が実家に、新年の挨拶をしにきたのが不幸の始まりだった。ただいまと言った瞬間から俺は姉貴の奴隷の如く、荷物やら茶を運ばされて肩をもみ、しまいにゃ酒の買い出しまで行かされた。姉貴の旦那さんもこんなことされてるんじゃないか、なんだか最初に会った時よりも顔やつれているんじゃ…。などと思っていたが、気の毒過ぎてやめた。


やっと解放されたかと思い、コタツで課題をしていると、同じコタツでやけに化粧に気合いを入れている姉貴に声を掛けられた。

「ねぇ、あんた暇そうね。暇なんでしょ、だったら美紀の面倒見ててよ。あたし、半助くんと一緒に同窓会行ってくるからさー。ちなみに母さんと父さんも夜まで出掛けるからあんたしか美紀の面倒みれないからね。それじゃ、よろしく。美紀、おじちゃんの言うこと適当に聞いて良い子にしてるのよ。」


頼むからおじちゃん呼びはやめてもらえないだろうか、と思っていたら傍らでぬいぐるみと遊んでいた姪っ子は頷き、そして俺と姪っ子の2人だけになってしまった。


姪っ子は嫌いじゃない。嫌いじゃないけれど、正直子供というのが苦手だ。近所のガキには見る度にビビられ、中学の時に学校行事で訪れた幼稚園訪問では誰1人として俺の方によって来なかった。

何よりものトラウマは、生まれてまもない時に姪っ子をこの手で抱こうとして泣かれた事が一番の原因ではないだろうか。

今となっては過ぎた話であるが、まだまだ小さな姪っ子がいつ何時泣いてしまうかが心配でならなかった。あともう一つ心配なのは、姪っ子と歩いている姿を知り合い達だけには、兎に角見せたくないと思った。

長次や伊作ならまだ大丈夫だろう(伊作は口が軽いのが難点ではあるが)しかし後の3人に会った日には、やれロリコンだ犯罪者だと指を指されて笑われるのだろう。それは、それだけは何としてもでも阻止したい。俺は慎重に慎重を重ね近くの公園へと順調に足を進めていたが、後数十メートルという所でとんでも無い事態が起こってしまった。

前後左右に気を取られ過ぎた俺は、姪っ子の足元の石に気づかず、石に躓いてしまった姪っ子が思いっきり転倒してしまった。


転んだショックで両膝をついたまま数秒ほど呆然とした姪っ子。しかしながら段々と目の縁から涙の膜が溜まってきている。やばい、泣く…

「あっれー?潮江っちじゃん。あけおめー…って潮江っち、ロリコンの趣味を持つのは勝手だけど誘拐はいけないよ?」


まるで空気を読まないこの呑気な声、勢いよく後ろを振り向けばあいつらと同等に会いたくなかった女が立っていた。


「げ、☆…」


小平太同様空気を読まず、仙蔵のように傍若無人なこの女は、日頃から俺にやたら絡んでは次々に悩みの種を俺に目掛けて振り撒いてくるような女だ。

そんな事を考えている間にも姪っ子は今にも泣き喚く寸前の顔をしている。本格的にやばい、と慌てる俺を余所に☆が美紀の前へとしゃがむ。ば、バカたれ!スカートの中見えるだろうが!


「転んじゃったねー、でも大丈夫だよ!泣かないで?公園もうすぐだよ!今泣いて帰っちゃったら遊べないからつまんないよ?お姉ちゃんも公園で遊びたいなー!あ、わんわんがいる。…って、あれはっちゃんじゃん。よし!わんわん触りに行こ!」


凄まじいマシンガントークで美紀を言いくるめ、そのまま美紀を担ぎ上げて公園へと去って行った☆の背中を唖然と見つめていたが、美紀が笑っているのが見えて、ふと笑いが込み上げた。

あいつらを追いかけている途中、自販機を見かけて立ち止まって財布を出す。美紀と☆、それと竹谷の分の飲物を買ってから、公園のベンチへ腰を下ろした。


美紀は竹谷んちの犬に触れては声を上げて笑っている。それを眺めていたら☆が俺の隣に腰を下ろした。さっき買ったホットココアを☆の膝に置くと不思議そうに俺の顔を見た。


「あの、あれだ。美紀の面倒見てくれたからな…その礼だ。」


☆は満面の笑みでココアを受け取る。


「あたし、潮江っちに初めて感謝された気がする。」


そりゃそうだ、普段から俺を困らせる事しかしないだろ。と言ってやろうかと思ったが、意外にも嬉しそうな顔をしていたので口を噤んだ。


「☆、まぁ…今年もよろしく、な。」


K(今年も)

Y(よろしく)

ハニー




「んで、あの子はどっから誘拐したの?」


新年早々、☆に拳骨を食らわせた。



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