愛と呼ばずに何と呼ぼう。
「ハチ、ごめんね。こんな遅くまで居座っちゃって…しかもご飯またご馳走になっちゃった。」
手と手をしっかりと絡め、ハチと2人で駅へと続く道のりを歩く。寒いから、ぴったりと寄り添って。街頭が私たちの影をさらに重ねている。
「いいって!母ちゃんが好きで作ってるだけだし、それに、さ…」
途切れた言葉が気になって、ハチの方を見る。寒さで鼻を赤くしているハチを、すごく愛しく感じた。
「それに、なんか家で一緒に飯食えるって嬉しいからさ!家族って感じしねぇ?」
満面の笑みで私を見つめるハチに、私も自然と笑顔が移る。ハチの腕にぎゅっと抱きついて歩く。
「うん、嬉しい。何か認めてくれてるみたいだし。」
ハチは私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。ハチの大きな手は何時だって私を安心させてくれる。
「当たり前だろ。★だし!」
根拠ないじゃん!と頭突きをかわしても、笑ってるハチ。そしてまたぎゅーっとくっついた。
「ハチ、好きだよ。」
「バーカ、俺の方が★の事好きなんだよ!」
嬉しくて、恥ずかしくて、一気に顔が熱くなるのがわかった。顔めちゃくちゃ赤いぞ!ってからかわれて、拳を作ったら、ハチの大きな手でやんわりと包まれ、そのまま手を引かれてハチの腕の中にすっぽりと包まれれた。
「なぁ、★。俺、さ…単純だし、馬鹿だし、まだ大学生だけどさ…」
ぐっと抱きしめられ、私は少し爪先立ちになる。ハチの声が、呼吸が、耳元でダイレクトに伝わってくる。心臓の動きが段々加速してきた。すると両肩を掴まれ、いつになく真剣なハチの顔が私の視界に現れた。
「頑張って仕事して、★の事幸せにするから…。俺と、結婚してくれませんか?」
耳から脳までの伝達がひどくスローに感じた。言葉が出てこない。その代わりに外に出たものは、温かい涙だった。
「え?ちょ、★!?」
突然の涙におろおろしているハチに、泣きながら笑って抱きついた。
「…うん。私も、ハチと結婚したい、です。」
ハチの胸に耳を寄せる。ハチの心臓も、心なしかドクドクと鼓動が速く聞こえた。何の反応も無いハチを不思議に思って見上げると、顔真っ赤にしたハチが手の甲で口元を抑えていた。
「ハチ…?」
「やばい、むっちゃ嬉しいんだけど…」
そんなハチに、また愛しさが芽生えてもっと力強く抱き締めた。もう、ハチに対して抱く気持ちは恋でなくなった。今の気持ちを、愛と呼ばずに何と呼ぼう。
ハチの顔が近づいてくる。私はそっと、目を閉じた。