トリックオアトリート?
「トリックオアトリート!」
みんなで雷蔵の家に集まり、特に一緒になって何かをするでもなく、私は雷蔵のベッドの上で雑誌を読んでいた、はずだ。
いつの間にか雷蔵の匂いに安心して寝てしまった私の目の前には、黒いマントを身に纏って尖った刃を見せている三郎と、ものっそいでかい熊の着ぐるみを着たやつと白い布のようなものを全身ぐるぐるに巻いたやつ。そして、後ろで魔女の帽子を被って恥ずかしがっている雷蔵がいた。
「…なに?その着ぐるみの中身ってハチ?…あと、そのグルグルしたものって…兵助?」
寝ぼけ眼でデカい熊を見上げていると、熊の頭がかぽっと外れ、満面の笑みのハチと目があった。
「今日ハロウィンだろ?こっそりバイトの着ぐるみ借りてきたんだ!」
あぁ、そういう事。そして白い物体、もとい兵助に目を向ける。
「トイレットペーパー2つも消費して頑張った。」
いや、頑張ったと言われても。やめて、そんな満足気な瞳で見つめないで。
「どうよ?俺の素晴らしいヴァンパイア姿は。」
三郎はわざわざメイクまでしてニヤリと笑った。つか、私のポーチから化粧品漁りやがったな。
「ね、ねぇ。僕もう脱いでいい?恥ずかしいよ!何で僕だけスカートなんだよ!」
耳まで真っ赤にした雷蔵をよくよくみると、真っ黒な膝上丈のワンピースにニーハイを履いて、箒をもっておろおろしていた。
「雷蔵、かわいい…。」
ポツリと思った事が口から出るとこれ以上ないくらいに体を真っ赤にしてしまった。
「ってなわけで、トリックオアトリート!お菓子くれなきゃイタズラすんぞ。」
三郎が未だにベッドに座っていた私を急に押し倒した。
「三郎、あんたがイタズラって言うとすげー性的に聞こえるんですけど。」
あっけに取られていた3人だったが、直ぐにハチが熊の頭を三郎にかぶせ、雷蔵が持っていた箒で三郎を殴りつけ、兵助はそれを普通に見ていた。
「はい。」
散々雷蔵に叩かれまくって、やっと熊の頭を取った三郎に鞄の中にあるチョコレートを与える。とりあえず、三郎からのイタズラは回避されただろう。
「んで、ハチはポテチね」
ハチの大好きなコンソメ味を与えると満面な笑みでハチはそれを受け取る。
「兵助にはこれしかない。」
そう言って兵助に渡したのは絹ごし豆腐ワンパック。
「雷蔵、ごめんね。雷蔵の分はないんだ…。」
鞄の中にあったクッキーを取り出そうとして、私は思い止まった。
「え?全然いいよ、三郎がいきなり始めた事だし!」
雷蔵の右手を引き寄せ、さっきの三郎がしたような体制にさせる。
「な…!?」
「だから、雷蔵…私にイタズラして、いいよ?」
私を押し倒した形のまま、雷蔵も他の3人も固まる。
その沈黙を破ったのは兵助だった。
「あ、雷蔵。鼻血出てる」
そうして、兵助の纏っていたトイレットペーパーは雷蔵の止血に使われた。
それから一週間、雷蔵は私とまともに口を聞いてくれなくなってしまった。
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ハロウィン普及委員会にこっそり勝手に献上。