これが僕たちの愛し方



前の彼氏にはよく暴力を振るわれた。


その前の彼氏にはよく浮気をされた。


そんな男運ゼロな私にも、漸く春が訪れた。



見た目は派手だけれど、私の事を私以上に愛し、一番に考えてくれて、ちょっと鈍くさいが美容師の腕はカリスマ的で、此処ら辺の若者なら知らない人はほぼ居ないんじゃないかってくらい有名人の斎藤タカ丸君。


私はそんな彼をとても誇りに思い、私もタカ丸君を愛してやまなかった。

「★ちゃん、待たせてごめんねー。片付けに時間掛かっちゃって…、これお詫びに。ホットココアなんだけど、」


タカ丸君が働いている美容院の通りの曲がり角が、私のタカ丸君を待つ場所になっている。此処からだと、タカ丸君の邪魔をせずにタカ丸君が働く姿を見ていられるから。


「ありがとう、私が勝手に待ってるだけだからいいんだよ。ココアありがとね。」



ほら、すごく優しい。横に並ぶタカ丸君の腕に頭を寄せる。幸せ過ぎて溶けてしまいそう。



「★ちゃん、あそこで待ってて誰かに絡まれたりとかしてなぁい?ここら辺治安悪いし。僕、心配だなぁ。」


眉毛を下げて心配顔のタカ丸君、毎日と言う訳ではないけれど、最近変な男の人によく声を掛けられているのを思い出し、顔が歪む。


「うーん。最近ね、毎日って訳じゃないんだけど、毎回同じ人に絡まれるんだ。」


何気なく見たタカ丸君の瞳は、何かを考えるように細められていた。いつものふにゃりとした笑顔でないタカ丸君の様子が、私はとても怖く感じた。


「…タカ丸君?」


はっ、と我に返ったタカ丸君はいつものようにふにゃりと笑った。


「ううんー、何でもないよ。そんな人が居るんだ、なおさら心配だなぁ。どんな感じの人なの?」

それは、いつものタカ丸君で。私はさっき感じた恐怖を忘れて、その男の人の外見をタカ丸君に話し、その日は何事もなく、タカ丸君と帰った。



タカ丸君の仕事が終わるまで待つ場所は変えなかった。そこしかよく見える場所がないし、そんな男の人なんてあしらえば済む話だったから。


でも、一週間そして二週間経っても男の人に会うことはなかった。まぁ私にしては好都合な事だから、と気にも止めていなかった。



「★ちゃん、お待たせ。帰ろっか。」


差し伸べられた大きな手を握り返して、いつもの道を歩く。


「そういえば、この前言ってた男の人はまだ声掛けてくる?」



「そう言えばここ最近話し掛けられないなぁ。」

確か、最後に男の人を見かけたのはタカ丸君に言った日だったはずだ。私はあの日確かに感じたタカ丸君への恐怖を思い出した。


「タカ丸君、何も…してないよね?」


根拠も何もない、ただ漠然とした不安を抱えてタカ丸君に問い掛ける。


「なんで?僕そんな男の人に会ったことないもん。」


何時も通りふにゃりと笑う彼。それでも、私は心にある不安は拭いきれなかった。


「僕は力もないし、おっちょこちょいだけど…★ちゃんを守るからね。」


私はその言葉が嬉しくて、拭い切れなかった不安も忘れて何度も頷いた。


タカ丸君の言葉の本当の意味も知らずに。





また、タカ丸君の帰りを待つために曲がり角に立っていると、タカ丸君のお客さんに声を掛けられた。


結構柄の悪い感じで、あまり好きでは無いけれど、タカ丸君のお得意さんなので失礼の内容に対応する。


その時、そのお客さんの左腕で輝くシルバーのブレスレットを見て、私は全てを悟ってしまった。


そのブレスレットは、よく話し掛けてきた男の人が付けていた物と同じだった。それは男の人が特注で作って貰ったのだと、得意気に話していたのだから。



当たり障りの無い話をしていると、タカ丸君が仕事を終えて私の下へ来た。


二言三言交わして、お客さんは去っていった。タカ丸君の手が私の手を包む。


「僕たちも帰ろっか。」


私はタカ丸君の目を見つめる。私が移るその瞳はキラキラと輝いていた。


「…うん、帰ろっか。」


私は何も言わない。


タカ丸君が他の人を介して誰かを傷つけても。


それは私を愛してくれている上での行為だから。

「★ちゃん?どうかした?」


「ううん、何でもない。タカ丸君、大好きだよ。」


ふにゃりと、タカ丸君が笑った。


「僕も、★ちゃんが大好きだよ。」


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