変態スイッチ
「ちょっと、鉢屋。雑誌ばっか読んでないであんたも考えなさいよ。」
此処は俺の部屋であり、俺のテリトリーだ。何故そんな事を言われないといけないんだ。
人様のテーブルにプリントをどっさり撒き散らし、これ見よがしに溜め息を吐いて不満を言う☆に、俺も溜め息を吐いて雑誌を放ってベッドから起き上がる。
「いーじゃん、そんなん適当に決めて適当にやれば。」
文化祭でやる出し物を何にするかクラスの奴らから意見を出させたのだが、俺には到底縁のない事なのに。
「あんた、それでも学級委員なわけ?つか、あたしもめんどくさいからちゃっちゃと決めてみんなに押し付けたいの!」
お前こそ、それでも学級委員かよ。
テーブルに撒き散らされたプリントの一枚を手に取る。女子の今時らしい丸文字でかかれた案を一瞥する。
「はっ、今時メイド喫茶て…。」
☆もプリントを覗き込んできた。ふわりと、嫌みったらしくないシャンプーの匂いが俺の鼻をくすぐった。
「これ、結構多いんだよねー。つーか、女子のほとんどが久々知のメイド服見たさらしいよ。ま、それなら私も見たいんだけどね。」
兵助のメイド服姿、想像しただけで非常に残念な気持ちになる。
「俺にはそんな趣味ねーぞ。」
つーかあいつ、何気にすね毛とかしっかり生えてんのに、女子はそれでもメイド服を着させたいのか。
「もしやるってんなら兵助のすね毛はあたしが一網打尽にしてやんよ。」
☆にすね毛を剃られてる兵助を想像して、俺は若干吹いてしまった。
「何笑ってんのさ、あんたの考えは大体くだらないんだから…。さっさと決めちゃうよ。」
文句ばかり垂れるが、みんなの意見を真面目に考える辺り、☆は頑張ってるんだなと感心する。シャーペンで頭を掻きながらみんなのプリントに目を通す☆。つか待て、此処に居るのは青春真っ盛りな高校生の男女だぞ?ちょっと、いや…かなりオイシイ状況じゃないのか?
「なぁ、…なぁって。」
「何?文化祭の内容以外の話だったら鼻フック。」
前言撤回。真面目に文化祭の案を決めるとしよう。
「あ、あのさ…喫茶店でいいんじゃね?みんなの意見見てる限りじゃ模擬店系が多いし。コスプレ喫茶って事にすりゃみんなやりたいやつ出来んじゃん。」
☆の動きが止まる。やっぱダメ、か。
「鉢屋…あんたやっぱ凄いわ。それ、そうしよう!鉢屋の意見ならみんな賛成するっしょ。」
決まり、といって笑顔になる#名前#に不覚にも心臓が跳ねてしまった。
「あたし、何にしようかなー。ちなみに鉢屋と不破はお揃いでなんかやってね。」
客寄せパンダよろしく、俺と雷蔵も女子の歓声が上がるようなもんを着させられるだろう。
コスプレでふと思い出し、クローゼットの中を漁る。少し埃被った紙袋が奥から見つかり、俺はそれを引きずり出す。
「なにそれ?」
☆が後ろから覗き込む。ちょ、頼むから心臓ちょっと落ち着け。
「これ、前にビンゴ大会の景品で当たったんだけど。☆、お前着てみろよ。」
取り出したそれは、先ほど話題に出てきたメイド服。☆の目が輝いた
「え!着たい着たい!ちょっ、着替えて来るからトイレ貸してね!」
☆はメイド服を引っ付かみ、トイレに駆け込んでいった。
数分後、こんこん、とドアを叩く音がした。この家の中には俺と☆しか居ないのに、あいつは何故ドアを叩くんだ?
「何?入ればいいじゃん。」
「失礼します、ご主人様。」
は?と部屋に入って来た☆を凝視する。黒のニーハイに、屈んだらバッチリ下着が見えそうなほど短いスカート。胸元はバックリと強調され、頭にはちゃんとカチューシャが乗っかっている。
「どうです?ご主人様。お気に召されましたか?」
唖然としている俺に、ノリノリで主人様と呼ぶ☆。
さっきも言ったけど、此処に居るのは青春真っ盛りな高校生の男。そしてメイド服に身を包んでいる女。
頭の中で、何かスイッチが入った。
「ちょっと、鉢屋なんかリアクションしてくれないとつまんないじゃん!」
近付いてきた☆の腕を掴み、さっきまで寝転んでいたベッドへと体を沈ませる。
「え?ちょ、鉢…屋?」
俺に馬乗りされ、今度は☆が唖然としている。
「何かさー、メイド服の☆見たら俺の息子が元気になっちゃった。」
☆の顔が段々と歪んできた。
「あ、はははは…何の冗談…?鉢屋。そして息子よ、落ち着け?」
「鉢屋じゃなくてご主人様。だろ?」
☆のお陰で、俺は新たなプレイに目覚めた。
さぁ。文化祭の案も決まった事だし、今からは2人で楽しもうぜ?
俺の家に、☆の断末魔と俺の高笑いが響きわたった。