いとおしくてしょうがない。
バカ野郎。
そんな男に惚れた私はもっと馬鹿だ。
涙でぐしゃぐしゃな顔のまま、私は帰り道を歩いていた。
道行く人たちが好奇な目でじろじろと私を見る。
やめろ。こっち見んな。
彼氏に浮気された。
私は思い付く限りの罵詈雑言を“心の中”であいつに浴びせ、思い切り右頬を平手打ちしてやった。
ざまぁみやがれ。
ずびっと鼻をすすって歩いていると、後ろから能天気な声が聞こえた。
「お、★じゃん。どーした?」
振り返ると双子と生物バカと豆腐小僧が並んで歩いて、私の顔を見てぎょっとしていた。
「★ちゃん!?どうしたの!」
雷蔵が慌ててスクールバッグからタオルを取り出す。
「ぶっさいくな顔。」
三郎の腹をすかさず殴り、雷蔵からタオルを受け取って涙を拭く。
「失恋か?」
歯に物着せぬ兵助、てめーその口にオブラート突っ込んでやろうか?
「うっさいな、そうだよ!別れたの!あたしから振ってやったんだよ!」
タオルで鼻水を拭う。雷蔵の顔が少しひきつった。
「まじか!俺ら今からカラオケ行くんだけど★も来いよ!なっ!」
いやいやいや、話繋がらないんだけど。この生物バカはなに考えてんだ。
まぁまぁ、と半ば引き摺られて近くのカラオケに連行された。今は歌う気分じゃないのに。
部屋を案内され、早速三郎がデんモクで何かを入れた。
イントロが流れる。この曲は…と考えてる間に、何故か三郎とハチと兵助がマイクを持って立ち上がった。
私訳がわからず、ただただ三人を凝視していた。雷蔵は隣で苦笑いを溢していた。
「「「うぉっおー、うぉーお」」」
まさか…これは、
ねばだから来た人たち!?
三人の完璧な踊りとパート分け。
呆然としていたのに、いつの間にか私は腹を抱えて爆笑していた。
息吐くまもなく入れられたのは羞.恥.心。
私は腹筋が割れるほど爆笑した。
気付けばもう夜になっていた。
「なんなのあんたら!面白すぎなんだけど!腹筋つるんだけど!」
私はまだ笑いが止まらなかった。
すると四人はにこりと私に微笑んだ。
いつもはへらへらした三郎も、無表情な兵助もいつも大口開けて笑うハチも優しい顔。
いつも優しく笑う雷蔵は、優しさを形にしたような笑顔を私に向ける。
「やっぱさ、★は…」
「笑った顔が1番だよ。」
「泣いてる顔なんか似合わないから。」
「今見たいに笑ってろよ。」
四人の言葉に涙腺が弛んだ。
あんたたちも馬鹿だけど、そんなあんたたちがいとおしくてしょうがない。