下心スイッチ
三郎があんなこと言うから私もつい調子に乗ってしまったんだ。
とある晴れた日の休日。やることもなくて、暇すぎてうんざりしていたんだ。
三郎はこの前引っ掛けた女の子とデート。
兵助は塾の夏期講習。
ハチは部活の大会。
雷蔵は、と電話を掛ける。コール五回目で聞こえる優しい声。
「もしもし?★どうかした?」
「雷蔵今何してる?」
「僕?家で本読んでるよ。」
「構ってー。」
「暇なんだね…今日みんな用事だし、いいよ。どうする?どっかいく?」
「んー、雷蔵んち行く。」
「僕の?家誰もいないけどいい?」
「いやん、雷蔵やらしい事でもするの?」
「ばっ…!三郎みたいな事言わないの!」
「ごめん、じゃあ今からそっち行くね。」
「わかったよ。じゃあね。」
パタリと携帯を閉じ、部屋着を脱ぎ捨てて服を選ぶ。
何時もならTシャツとジーンズで行くんだけれど、ふとこの前三郎と喋っていた事を思い出す。
手に掛けていたジーンズを放り、さいきん買った黒のミニスカートとVネックのTシャツに着替えて家を出た。
雷蔵の家はそう遠くない。自転車で雷蔵の家を目指す。
チャイムを押すと、すぐに雷蔵が出迎えてくれた。
「暑かったでしょう。じゃあ部屋行こうか。」
雷蔵しか居ないけれど、お邪魔します。と言って二階の雷蔵の部屋に移動する。
雷蔵の部屋はクーラーが効いていて、道中でかいた汗はすぐに引いた。コンポからは雷蔵が最近ハマっているバンドの曲が流れていた。
雷蔵はテーブルの前へ、ベッドに寄りかかって座る。そこには読みかけであろう本が置いてあった。私も雷蔵に倣ってベッドに寄りかかる。
「あれ?★がスカート履いてるの珍しいね。」
雷蔵が、ふと私に視線を向ける。三郎や兵助なら似合わねー、と茶化すだろう格好。
「たまには、ね。変かな?」
「全然おかしくなんてないよ。かわいいね。」
そんな事を言ってくれるのは雷蔵だけだ。着て来て良かった。
「でもちょっと短くない?見えたら危ないよ。」
「大丈夫だって、みんな残念なものだってわかってるし。」
自分で言って少し悲しくなったのは気のせいだと信じたい。
「でも、ほら。そんな深いVネック着られると、目のやり場とか、さ。」
話している内にどんどん顔を赤らめて視線を逸らす雷蔵、この前の三郎の言葉を頭の中で反芻した。
「雷蔵ってすげー恥ずかしがり屋でさ。この前雷蔵とゲームしようとしたら、たまたま入りっぱのAVちらっとみただけで顔真っ赤にしちゃってさ。もー可愛いのなんのって…。」
あたしはその時、鉢屋が雷蔵に手を出してしまわないか危惧していたけれど。
確かに。恥ずかしがる雷蔵はめちゃくちゃ可愛いかった。
私のS心に、ぽつりと火が灯った。
「え?そうかなー。こんくらい普通だよ。」
雷蔵の方を向いて、足を崩して手をつき、体を乗り出す。
寄せられる胸と見えそうで見えないスカートの奥。
三郎の言っていた通り雷蔵の顔は真っ赤になっていた。
「うっ、なっ…!★!こっちむいちゃ見えちゃうよ!」
まるでうら若き乙女のように恥じらう雷蔵の顔を見てしまえば、ぽつりっ灯った火は火力を増していく。
「え?何が見えちゃうの?わかんないなー。」
段々と雷蔵ににじり寄る私。段々と私から遠ざかって行く雷蔵。
可愛い。可愛すぎる。こんなんじゃこっちが襲いたくなってしまう。
上がる口角。とうとう壁に追い詰める。
追い詰めた拍子に、あたしの手が何かを踏んでしまった。その途端、音楽がぷつりと途絶える。どうやらコンポのリモコンを押してしまったようだ。
「…★。」
小さく私の名前を呼ぶ雷蔵。その声は妙に落ち着いていた。
何?と雷蔵の方を見ようとした瞬間。私は天井と、雷蔵を見上げる格好になっていた。
あれ…?これ、どういう事?
先程顔を赤らめていた筈の雷蔵は何時もの笑顔とは違う、何というか…怪しげな笑みを私に向けていた。
「あ、れ?雷蔵、さん。これ、どーゆー状況?」
雷蔵はにこりと微笑む。
「★が悪いんだよ?僕を煽るような事するから、さ?」
いやいやいやいや。さっきまで可愛い雷蔵に煽られていたのは私の方なんだけど!
「ら、雷蔵!おっ落ち着いて…」
段々暗くなる視界。
どうやら私はとんでもないスイッチを押してしまったようだ。
「今度は、★が楽しませてね。」