秘密は夕闇に潜ませて
「☆、これ委員会のプリント。」
いつの間にか放課後で、いつの間にか兵助が目の前に現れ、無表情でプリントを渡す。
「あぁ、ありがと。」
もらったプリントに目を通すが頭には入らない。
先ほどの緩やかな時間が、頭から離れなかった。
何をするでもなく、何かを話す訳でもなく、不破くんは一緒にいてくれた。
時間が時を刻むのを忘れてしまったのか、私が時というものを忘れてしまったのか。
そんな気分だった。
「何ぼけっとしてんの?」
ひらひらと私の顔に兵助が手を翳す。
「んあ?…兵助、まだいたの?」
兵助から軽くデコピンをくらった。
「考え事にしてはあんまり悩んでなさそうなんだけど、どうしたの?」
前の席に腰掛けて、話を聞く態勢に入る兵助。
「いやー、なんかね。不破くんって、さ…人間じゃないのかな?」
はぁ、と兵助は盛大に溜め息を吐いた。
「雷蔵は人間だよ。☆よりは、な。」
失礼な、あたしだって人間だ。
「それより、さ。大丈夫なの?お前。」
大丈夫?って事はやっぱり留の事しかないんだろう。
「会えばそれなりに落ち込むけどね、不破くんと一緒にいると自然と忘れちゃうんだよね。」
不破くんの笑顔を思い出し、ほうっと息を吐く。
きょとん、とあたしの顔を見つめる兵助。
「え?雷蔵に恋したの?」
次は私がきょとんとなる番だった?
「は?あたしが?不破くんに恋?」
まさか、と鼻で笑った。
「何でそうなんのさ、昨日ふられたばっかなのに有り得ないっしょ。」
そうか?と、兵助は言う。
「まぁ、☆がそう言うならそうかもしれないけどな。」
まぁ、☆が大丈夫ならそれでいいよ。と、兵助は立ち上がってあたしの頭を撫でる。
教室の扉がガラリと開いた。そこには三郎とハチ、不破くんが立っていた。
「兵助ー、帰ろうぜ。あ、☆も一緒に帰る?」
ハチがニカッと笑いかける。
「☆、調度いい。お前もミスド一緒に来いよ。やっさしー三郎さまが奢ってやんよ。」
あら珍しい。
「シェイクも付けてくれなきゃ嫌。」
「おれポンデ豆腐がいい。」
何で兵助に奢らないといけないんだ!と三郎が吠える。
不破くんにはいはい、と受け流されていた。
ハチはそれを笑ってみている。
帰り道、不揃いな5つの影が並ぶ。
「そういやぁ、☆。5限目居なかったけど、どこ行ってたんだよ。」
三郎の問いかけに、思わず不破くんを見つめてしまった。
「そういえば、雷蔵も居なかったよな?」
ハチの隣にいた兵助も不破くんにどこに居たのか問う。
「「秘密、」」
顔を見合わせて、2人で笑った。
隣で見ていた三郎がやらしいって叫ぶ声は、夕闇に溶けて消えていった。