これも青春の1ページ
夢を見た。
あいつに振られる夢。
あたしは笑って見送った。
そして、目が覚めた。
気が付けば、もう8:30…
なんてベタな展開。
「…遅刻!!」
顔を洗って、歯を磨いて、スカート2つ折り曲げるのは若さ故。
不破くんに薦められた本を鞄に突っ込んで、自転車に跨って全力疾走。
朝と言えども日差しは強くて、学校に着く頃には私はきっと汗だくだろう。
前方に目を向けると、ポケットに手を突っ込んで悠々と歩いている生徒を見つけた。
私がこれだけ焦っているというのに!
追い越しついでにバシンと頭を叩く。
「いっ…て!」
調子こいてワックスで遊ばせた無造作ヘアーは私の一撃によってボサッと崩れた。
「三郎!ちょっとは急げって」
不破くんと同じ顔なのに、どこか空かした雰囲気の三郎は少し助走をつけたかと思うと、私の後ろにひょいっと乗りやがった。
「よっ!☆、頑張って漕げよ。」
こいつを振り落としたいがそんなことしてる暇はない。
くそったれ、と呟いてペダルを思いっきり漕いだ。
始業のベルまであと13分。
14分後、見事にギリギリアウトだった私と三郎は遅刻届けと説教を職員室で食らって教室へと向かった。
「ったく、三郎のせいであたしまで説教されちゃったじゃん。」
ばかやろう、と三郎に吐き捨てる。
「俺を急がせた挙げ句、叩いてきた☆が悪いに決まってんだろ?」
ばーか、ちーび、半目、などと低レベルな言い合いを続けているといつの間にか教室に着いた。
「おはよ!三郎、☆。仲良く遅刻かよ。」
ニカッとこちらに笑いかけるデカい男が此方へと近づく。
「ハチー、三郎のくそったれがあたしを巻き添えにしやがったから遅刻しちゃったんだって!」
三郎がこちらを向く。
「☆がもっと速く漕げば絶対間に合ったね。」
おいおい、とハチが私たちを宥める。
「つーか、☆が遅刻なんて珍しいな。」
ポンポンと頭を撫でるハチの手のひらはすごく心地がいい。
「ちょっと本読んでたらハマっちゃって、寝るの遅かったんだ。」
三郎がくつくつと笑う。
「☆が本なんて、読むキャラじゃないじゃん。どーせ愛しの先輩とラブラブしてたんだろ?」
自分の眉間に皺が寄るのを感じる。心の中にどろりと、暗く重いものが広がった。
「あいつとは別れた。ってか振られた。」
3人の間に奇妙な沈黙が流れる。
「あ、次数学じゃん。俺教科書借りてこなきゃ。☆、行くぞ。」
いきなり襟を引っ張られたかと思うと、そのままズルズルと廊下に引きずられる。
教科書ぐらい一人で借りに行け、寂しがりやさんめ。と思ったが、三郎なりの配慮だろう。私は何も言わなかった。
「らいぞーう、教科書貸して。忘れちゃったの。」
てへっ、なんてかわいこぶりやがる三郎を殴り倒したかった。
「三郎、いい加減にしなよ。その襟足千切られたいの?」
穏やかに、そしてにこやかに辛辣な言葉を零す不破くんに背筋が凍る。
「あ、★さん。おはよう。」
木漏れ日のような微笑みは、先ほどの三郎への辛辣な言葉を忘れさせる。
「おはよ、不破くん。本、途中まで読んだけどすごく面白いね。」私も自然と笑顔になる。
三郎が話題に入りたそうだけど2人でスルー。
「あの作者の本は全部面白いし感動するから僕、結構集めてるんだ。読み終わったらまた貸すよ。」
話す時の不破くんの目はお星様の様にキラキラしていた。
予鈴が響き渡る、もう行かなくちゃ。
「うん、楽しみにしとく。じゃあ、またね。」
手を降って送ってくれる不破くんに手を振りかえす。
心にあった暗く重いものはいつの間にかどこかへ消えていった。