夢遊病者は木漏れ日をみつけた
せっかくの日曜なのに、あいつのために空けといた予定はさよならの一言であたしに暇を与えた。
涙なんてちっともでないのに、心は今日の空とは裏腹に澱んだまま。
あいつの事を想って泣くと思うと気が引けるが、どうしようもなく泣きたかった。
失恋しすぎで涙まで枯れたようだ。
何か、何でもいいから泣かせてくれるものが欲しい。
ふと、最近出来た図書館が頭に浮かぶ。
そのまま、夢遊病者の様に私はくたくたのスニーカーを履いた。
うららかな陽気とはかけ離れた太陽が、私の背中をじっとりと濡らす。
近くだと思っていた新しい図書館は意外にも遠く、引き返したいと何回も足が止まった。
しかしながらやる事もない私はやっとの事で図書館にたどり着いた。
自動ドアが開けば、さっきまでの暑さが嘘のように体から退いていく。
そして私は取り憑かれたように本棚にへばりつき、興味をそそるような本を探す。
携帯小説とか興味ない。
べたべたな純愛小説も問題外。
これといったものなく辺りを見回していると、よく見知った顔を発見した。
顔の作りはそっくりなはずの彼等だが、私とっては全くの別人だ。
自他共に認める変態とは似ても似つかないその男の子は、難しそうな本を熱心に読んでいた。
本当に本が好きなんだろう。
不破くんは、私の視線にも気付かずにページを捲っている。
邪魔をしてはいけないし、三郎やハチみたいに普段から話したりもしないので、あたしはその場から立ち去った。
結局、泣ける小説とは程遠いミステリー小説を借りる事にした。
貸し出しの列に並ぼうとすると、丁度貸し出しを終えた不破くんと鉢合わせになった。
「★さん?」
びっくりした、と朗らかに笑う不破くんに、私もつられて笑顔になった。
「★さんも本、借りにきたんだ。」
「うん、まぁね。泣ける小説を借りに来たんだけど、全然違うもの借りちゃった。」
すると不破くんは、ちょっと待ってと言い残し、少し先の本棚へと走っていった。
本棚から目当てのものを見つけたようで、一冊の本を掴みこちらへと戻ってきた。
「これすごい感動するんだけど、良かったら読んでみてよ。」
あ、興味なかったらいいんだけど…と自分のした行動にしどろもどろしている不破くん。
「ありがと。さすが図書委員!さっそく読んでみるよ。」
不破くんはにこりと微笑む。
「それじゃあ、また学校でね。」
私も家へと続く道を辿る。
青々としていた空は、いつの間にか綺麗な夕焼けを見せている。
あれだけ遠かった道のりが嘘のように、いつの間にか自分の部屋へたどり着いた。
不破くんの木漏れ日のような笑顔を見たからだろうか、澱んでいた私の心は、すこしだけすっきりしていた。