揺れる紫煙はまるで僕らのようだ
「俺んちここ。」
二階建てアパートの角部屋。俺の憩いの場所。
「鉢屋って一人暮らしなんだ。」
ポケットからカギを出す。
「そ。一人暮らしなら女呼び放題とか考えただろ。」
ドアを開けて☆を入れる。
「うん。でも逆に呼べない理由わかった気がする。」
お邪魔します。と☆礼儀正しく入り、ローファーを揃えて脱ぐ。
俺も中へと入り、カギを掛ける。
ガチャリ、と無機質な金属音がやけに頭の中に響いた。
「生活感溢れる部屋だねー。」
「素直に汚い部屋って言えばいいだろ。」
お世辞にも綺麗と言えない俺の部屋。
ベッドの部屋には脱ぎっぱなしのスエットと服。
床にはテスト勉強以外には活用されない教科書が置かれている。
「まぁ座れる場所があるからいいんじゃない?」
☆がベッドに寄りかかりながら座る。
俺もベッドに腰掛け、☆をちらりと見る。まだ部屋の中をキョロキョロとみていた。
「ねぇ、ここって禁煙?」
ふいにこっちを振り向き尋ねられた。
「いや、特に決まってないけど…☆、吸うの?」
カバンからピンクのライターと黒い携帯灰皿。白地に緑の文字をあしらったパッケージの煙草が出てきた。
「意外?」
慣れた手つきで煙草を取り出し火をつける☆。
「まぁ、ね。人は見掛けで判断するもんじゃねーな。」
俺はぼーっと、部屋を徘徊する煙を見つめていた。
「もう習慣になっちゃったんだよね。」
トントンと灰皿に灰を落とし、また唇にフィルターを挟む。
その唇に視線が吸い寄せられる。
「ハチを目で追う様に?」
一瞬動きが止まり、ちらりと☆が俺をみる。
無表情なのに瞳の奥からは悲しみの様な、困った様ないろんな感情が混ざっていた。
「ばれちゃったか…。隠し通すつもりだったのに。」
溜め息と共に煙が吐き出される。
「一瞬気ぃ抜いちまったな。」
☆が煙草の火を消す。
そして流れる動作で俺を押し倒した。
「やろ…?」
見つめる瞳の奥は深い闇だった。