唇に嘘を、瞳には真実を
「鉢屋ー。」
だらだらと長かった授業もいつの間にか終わり、☆が廊下側の窓から顔をだす。
「あれ?☆、三郎に用事?」
部活に行く気満々なハチが☆を見て立ち止まる。
俺は勉強道具の入っていないカバンを肩にかける。
「うん、駅前のCDショップについてきてもらうの。」
本当にそう約束したかのように☆は嘘を吐く。
「そっか。また良い曲あったら貸してなっ!」
にかっと笑うハチににかっと笑い返す☆。
ハチは部活仲間に呼ばれて慌てて出て行った。
「んじゃ、行きますか?」
☆の方に顔を向ける。
☆が一瞬遅れて俺の方を振り向いた。
「そだね。」
行こう、と先に足を進める☆の後ろ姿をじっと見つめる。
後もう少しだけ、振り向くのが早かったら俺に気付かれなかったのに。
☆の好きな男。
「ねぇ、いつもどこでヤってんの?」
昇降口でナイキのスニーカーに履き替えると、すでにローファーを履いた☆が目の前にいた。
「大体女の家だねー、俺んちバレたら面倒だし。」
そういやぁ場所なんて考えてなかったな。
「うちかー…うちなー…」
眉を寄せて☆が悩む。
「家に親がいるとか?」
それは気まずいだろうな、と考えていたが☆は首を振る。
「いないんだけど、ちょっと面倒な事が…「☆。」
昇降口を出た所で、声がした。
昇降口の上の教室から整った顔が覗く。
「今日、お前の家に行くから逃げるなよ。」
「…仙蔵。」
横に居る☆を見ればあからさまに嫌な顔をしていた。
立花仙蔵と言えばこの学校の生徒会長だ。2人がどういう関係なのかは皆目見当がつかない。
「…わかったよ。でもちょっと遅くなるから帰る時にメールする。」
立花先輩は不敵な笑みを見せ、顔を引っ込めた。
引っ込める間際の、突き刺すような視線は俺に向けてのものだろう。
嫌な人を敵に回した気がする。
「ごめんね、鉢屋。仙蔵くるみたいだからうち無理だわ…、あと鉢屋の事はフォローしとくから心配しないで。」
さっきの視線には気づいていたようだ。
一応俺の学園生活の平穏は約束された。
「立花先輩と一体どーゆー関係なんだ?」
☆が苦笑いを漏らす。
「ただ隣の家なだけなんだけど…色々とコキ使われてんだよね。」
家を帰ってからの事を想像したのか、☆が溜め息を深く吐いた。
「んじゃあ俺んちでいい?」
え、と☆が俺を見つめる。
「他の女だったらしないけど、☆なら問題なさそうだしいいよ。」
☆が俺を好きになる筈はないからな。
「ま、押し掛ける事なんてしないから安心して。」
にかっと笑う☆の顔を何故かずっと見ていた。