救ったのは指先



保健室でサボったのがまずかった。



「ねぇー、さぶろーくん彼女いないのー?」




そんなバカみたいな口調で喋るな。バカが移る。


「あー、あははは。」



同じ学年のスリッパだけど全く知らない女。



「あたしさぶろーくんの事好きなんだけどー…。」


生憎保健の先生は職員室。俺を助けてくれるヤツはこの場にはいない。


女が俺に近づいてくる。


香水付けすぎ。くさい。睫毛にひじきがぶら下がってる。鼻の頭てかってる。


「気持ちは嬉しいんだけどねー…」


こんな女じゃやる気も起きねーよ。


「失礼します。」


俺の危機を救ってくれたのは…




☆。




「三郎、あたしのいないとこで浮気?」



え?いつ俺がお前と付き合った?つか名前?



「えー?☆ちゃんと付き合ってるのー?知らなかったー。」



俺だって知らなかったっつーの。



「邪魔してごめーん、じゃあねー。」そして女は出てった。




「鉢屋、あの手の女の子好きじゃなさそうだったから。迷惑だった?」


あ、そゆこと。


「いや、助かった。」



☆が笑った。


にかって効果音が似合う笑顔をハチと七松先輩以外で初めてみた気がする。


「てか、先生いないの?バンソーコーもらいたかったんだけど。」


☆が怪我人リストに名前を記入する。


その用紙には学校一不運な保健委員長の名前がずらりと並んでいた。



「いま職員室行ってる。どっか怪我したの?」



ぴん、と人差し指を立てる☆。


「スパッと紙で指切っちゃって。結構深いんだよ。」


ふと、俺の悪戯心が首をもたげる。



「貸してみ?」



☆の手を寄せる。

傷口を舌で丹念に舐めてやった。



どんな表情をするだろうか。




目線だけ☆の顔に向けた。



びっくりする、とか顔が真っ赤になる、とか期待したのに。



これが治療だと疑わないような表情で俺の行動を見ている☆。



「消毒おわった?」


「あ?あぁ…」


「ついでにバンソーコーも貼っちゃってよ。左手だと巻きにくいから。」


戸棚から絆創膏を一枚取り出し俺に渡してくる。


俺の悪戯心はどっかに行ってしまい、大人しく☆の人差し指に絆創膏を貼る。


「ありがと。じゃあね、」


何故か俺は☆の手を掴んだ。


その行為にはさすがにびっくりしたらしく、☆の目が僅かに見開いた。


「なぁ、アドレス教えてくんねーと誘えねーんだけど。」


あぁ、と納得した☆は携帯を取り出す。



「赤外線、送る方でいい?」


ブレザーのポケットからストラップも何も付いていない、どシンプルな携帯が出てきた。



「おー。んでいつが暇なの?」


アドレスが来たので番号と俺のアドレスをメールに載せる。



「大概暇だよ。彼氏もいないし、バイトもしてないから。」



☆の手の中の携帯が震える。



「俺、今日暇なんだけどー。」


言った後に別の子との約束があった事を思い出した。


まぁそんな約束どうでもいいか。



「わかった。じゃあ終わったら鉢屋の教室に行くね。」



ばいばい、と☆が手を振り出て行くまで俺は目を離さなかった。


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