恋と呼ぶには早すぎて




私の朝の日課。自分の部屋の窓から外を眺めること。理由はない。毎日10分間程外をぼうっと眺める。外っていっても眺めるのは遠くじゃなくて、家の前にある信号付近。信号を渡る人をなんとなく見るのが好き。



今日も私は少しだけ早く起きた。朝ご飯食べて、制服に着替えて、鞄の中を整頓して、自分がすぐにでも学校に行ける状態する。
サラリーマンが数人。若い、洋服屋さんなんかで働いてそうなお姉さんも数人。地元の小学校の先生。犬を連れたおばあちゃん。セミロングの女学生。散歩をするおじいちゃん。テニスラケットを背負った男子学生。
私が毎日見てる時間にこの信号を渡る人達はこれぐらい。朝の通勤通学時間だから、メンバーが固定されるのは当たり前かもしれない。


「よっしゃ、準備完了」


外を眺める日課がスタート。今日は朝から英語の小テストがあるから、テキストを片手に持つ。見もしないけど、気持ち的な問題だ。今日も続々といつもの通るメンバーが信号を渡っていく。
しかし、テニスラケットを背負った男子学生くんが、来ない。そろそろ私の家を出る時間も迫ってくる。全員見れないのが悔しいが、今日は諦めて出発するしかない。ついてないなあ。そう思いながら玄関を出る。その瞬間、凄いスピードで目の前を何かが通過した。見ると、テニスラケットの男子学生。


「何だこれ」


気が付くと、足元に、青色のスポーツタオルが落ちていた。玄関を出たときはなかった。今はある。それは、どう考えても男子学生のものだった。落としっぱなしにしておく訳にもいかなくて、拾う。どうやら明日は、これを彼に届けなくてはいけないらしい。











まさか、普段は自分の部屋から見ている、この時間のこの空間に、私が仲間入りするとは思わなかった。こんな時間に信号の前で立ち止まってるなんて、確実に私は変な人だ。カモフラージュに、用もないのに携帯を触る。そうしてる内に、時間はたっていく。いつもの順番通りにみんなが通過していく。そろそろ、彼がくる筈だ。


「きっ、来た…!」


思わずひとりごとを呟いてしまった。お母さん、私達の家の前で今日不審者がいたって噂が流れてきたら、それは私です。思っている内に、当たり前だけど、彼はどんどん近づいてくる。初対面で、しかも同じ学校じゃない人に話しかけるなんて、始めての体験だ。緊張する。異様に緊張する。でも話しかけなきゃタオルを返せないぞ。勇気を持て私!


「あっ、あの」
「…はい?」


テニスラケットを背負っている彼がこっちを見た。帽子でいつも顔は見えなかったが、普通に格好いい。そして、自分でした事だけど、そんな人に話しかけてしまった私は凄くドキドキしてる。頭にハテナマークを浮かべた彼は、そんな顔すら格好良かった。学校ではモテるんだろうなあ。


「これ、昨日落としてましたよ」


そう言って、スポーツタオルを差し出す。


「あ、本当だ。落としてたんスね、俺。ありがとうございます」
「いっ、いえ。……じゃあ!」


と言って自分の進行方向に行こうとしたら、肩にかけてた鞄を引っ張られた。突然のことにビックリして、少しバランスを崩す。倒れる…!瞬間にそう思ったんだけど、私の体は一向に地面に近づかない。もしかして少女漫画にありがちな展開なんじゃ、と思って顔を上げてみる。……案の定少し彼に抱きかかえられるような形になっていた。


「すっ、すいません」
「あ、いえ、引っ張ったこっちが悪いんで」
「え、あ、は、はい」
「…あんた、毎日そこの窓からこっち側見てる人だよな」
「えっ」


私が眺めてるときに、目が合う人なんていないから、誰も私のことに気付いてないと思っていた。まさか、気付いてる人がいるなんて。毎日眺めてて、気持ち悪いとか思われたかな。だって、今思えば、自分の通学シーンを知らない人が毎日見てるなんて気持ち悪い。突然、凄く申し訳ない気持ちになってきた。


「…そう、です。ほ、本当にすいません!」
「え、何で謝るんですか」
「いや、あの、毎日眺めてるなんて考えたら気持ち悪い事だなって思って。もう、見るの辞めます!」


勢いで辞めるなんて言ってしまった。辞めたくないのに。彼には喜んで肯定されるに決まってる。自分で提案した直後に後悔するなんて。馬鹿か、私は。


「俺は、辞めなくていいと思います」
「ですよね。って、…ん?え、辞めなくていいんですか!?」
「はい。今さら居なくなられても、逆に気になりますし」
「……すいません」


何か私謝ってばっかりだな。辞めなくていいと言われて、正直ホッとした。ああ、続けられるのね私の日課!


「あと、これ」
「はい?」
「俺の忘れ物です。明日、届けて下さい」
「忘れ物…?えっ!」


気付いたら彼は走り出していて、もう姿は遠い。昨日も思ったが、無駄に足速すぎやしないか。どうやら、明日私はこれを彼に届けなくてはいけないらしい。少し嬉しい自分がいた。



(はやく明日が来ないかな)

 

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