オレンジシャーベット






「あつい」
そう言ってブン太が私の手からオレンジジュースを奪いとった。凍らしていたうえにクーラーボックスから出したばかりだからそれはキンキンに冷たい。この炎天下には素晴らしい飲み物だ。しかし私の目の前に居る立海3年天才的な丸井ブン太くんはついさっき赤也くんとの練習試合を終えてこっちに来たばかりだ。とてもじゃないがスポーツ後にその甘ったるい飲み物を飲むなんて芸当、私には出来ない。にも関わらずブン太はごくごくと勢いよくそれを飲んでいく。
「テニス後すぐによくオレンジジュースなんか飲めるね」
「お前がテニス後すぐの俺の目の前で飲むからだろぃ」
そんな事を言われても私がたまたまそれを飲んでいる時にブン太が来たのだから仕方がない。だいたいちょっと暇だから立海の練習を見に来ただけの私のところにブン太が来るなんて思ってもなかったんだ。なんたって私が今居る位置はテニスコートがギリギリ見えるぐらいの木の下。そりゃ私だってどうせ見るならテニスコートの近くで見たかったが、テニスコートに近い影はこんな暑いのに練習を見に来た女の子達で一杯だった。影なしでもいいから近くで見たいなんて気にはなれる筈もなく、仕方なく少し遠くから見ていたのだ。
「クーラーボックスの中にはスポーツドリンクなどが入ってますよー」
「出すのめんどい」
そう言ってブン太はそれを飲み干した。私のクーラーボックス程バラエティーに富んだクーラーボックスもないというのに失礼な奴だ。スポーツドリンクはもちろん、お茶、水、カルピス、オレンジジュース、コーラ、ジンジャエール。暑いことは分かっていたから家にあるありったけの飲み物をクーラーボックスに詰め込んで来た。
「よく私がここに居るの気付いたね。行くってメールもしなかったのに」
「赤也がさっきの練習試合中に気付いて教えてくれたんだよ」
「…赤也くん凄い視力だね」
こんなんでも私はブン太の彼女だ。そのお陰で立海のレギュラー陣とは一通り面識がある。特に赤也くんはよくブン太と仁王と私のクラスである3―Bに遊びに来るので、私とメル友でもある仲良しさんだ。廊下ですれ違うときですら先輩!と言ってよって来る赤也くんは非常に可愛い。もし私がブン太と会う前に赤也くんと会ってたら赤也くんを好きになっていたと思う。こんなこと言ったらブン太が怒るだろうから秘密だけど。
「あー、暑い!お前金持ってねえ?」
「丸井さんカツアゲは止めて下さい」
「奢ってもらうだけだっつーの」
「は?」
そら行くぞ、と言ってブン太は歩き出した。意味が分からない。と思っている間にもブン太はずんずんと先に進んで行く。こうなると引き止めても無駄なことは長年の経験上よく分かっているので、急いでクーラーボックスを持って追いかける。飲み物が沢山入ったクーラーボックスは正直重たい。ガタガタと飲み物が暴れる音を立てながらブン太に追い付く。
「それ貸せよ」
「それ?」
「クーラーボックス」
「え、なんで」
「重いんだろぃ?持ってやる」
「あ、ありがと」
これからどこに行くのかは知らないが、クーラーボックスを持たれてしまったらもう着いて行くしかない。奢るということは腑に落ちないがもうこのさい奢ったろうじゃないか。



オレンジシャーベット
(君の優しさに負けたなんて秘密)

 

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