風が冷たいビルの屋上。西陽がすぐ横で燃えている。逆光で、相手の表情はわからない。掴まれた手首が鬱血しそうな程の強い力でコンクリートに押し付けられて、息苦しさに冷や汗が頬を伝う。もう殺される、と思った。痛いだとか離せだとかいう言葉の代わりに、口付けを強請る。足りない、と男は言う。お互いの口内を粘つく唾液で満たしても、それでもまだ渇いているのだ、と。服を引き裂いて、貪るように身体を求めて、熱を分け合って、それでも、なお。足りねえんだよ、どうすればいい、土方。縋るような声を遮って、空いた方の手で銀髪を手繰り寄せた。ああそうだ。渇いている。喉も、身体も、心も、何もかも。呼吸を奪い合うような口付けを繰り返して、ああ今度こそ殺される、と思っても。骨が砕けそうなくらい強く抱き締め合っても。それでも、なお、満たされないのだ。

「っつ、い、痛、い、あ」
「ひじかた、もっと」

もっと、もっと、もっともっと欲しい。何がそんなに欲しい?何が足りない?相手の全てを自分のものにすることなんざ望んじゃいない。相手のものにも絶対になってやりたくない。それなのに。何度絶頂を迎えても、求めるものが得られる瞬間は決して訪れないとわかっているのに。二人して存在しない答えを探し彷徨っている。赤い光に包まれた、行方を失くした指先が凍えていく。一度捕らえられたら、きっともう逃れることは叶わない。どう足掻いても、救われないのか。こんなものが、これから死ぬまで続くのか。

 

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