※事後的な













 先輩が、最近全然「好き」って言ってくれない。
 おれが「好きです」って言うと、昔は「おれも」って言ってくれたのに、今じゃ「あ、そう」とか、そんな反応しかしてくれない。
 今も先輩は、おれに背中を向けて眠っている。いや、きっと起きてる。ただ、黙ってるだけ。
「、先輩」
 先輩の白い背中に、そっと指を添えてみた。先輩の肩が微かに揺れる。
「………なんだよ」
 先輩の声は微かに掠れてた。
「最近、なんでそんなに素っ気ないんスか」
 おれだって、冷たくされれば悲しくなるんですよ。
 そういう思いを込めて、言った。
 なのに先輩は、振り返る事もなく、「そんなことねぇよ」って答えた。掠れてて小さい、聞き取りづらい声で。
「でも、最近『好き』って、言ってくれないじゃないスか」
 おれは先輩の背中に添えた手を、ぴったりとくっつけた。
 先輩の温もりが感じられた。先輩を生かす呼吸のリズムや、心臓の脈打つ音が聞こえた。
 なのに、先輩の本心は聞こえない。先輩が今何を考えて、何を思っているのかなんて、とんと見当もつかない。
「先ぱ…」
「うるさい」
 先輩の声は、さっきの静かなそれとは打って変わって、ちょっと怒ってる感じだった。
 そっと手を離す。しっとりしてた手のひらに、すっと冷たい大気が触れた。
「……なんなんだよ」
 なにやら苛立ってるらしい先輩が、自分の前髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。小さく呟かれたその言葉が、おれに対してなのか、それとも別のことに対してなのかは、分からなかった。
「ねぇ先輩、ホントどうしたんすか。もしかして、浮気、と…か…」
 突然、ハッとしたように、先輩が振り向いた。
 いつもの余裕たっぷりな表情とは違う、微かに緊張した表情。
 頭の芯の辺りが、じんと痺れた。
 先輩は、浮気してるかもしれない。きっとそうだ。こんな顔した先輩、見たことないから。
 おれはとっさに目を逸らした。
 わかんない。わかんないけど、今の先輩は、なんだか、いつもの先輩とは違って見えたから。
 しばらくしてから先輩もあっちを向く。こんなに近くにいるのに、おれ達の心はてんでバラバラな方向を向いたまま。
 ふいに先輩が上体を起こした。ベッドの端に落ちてる着替えを掴んで適当に身に着けると、先輩は、静かに部屋を出て行った。
 先輩のいなくなった部屋は静かで、おれはどうしていいかわかんなかった。




end












まだ倉間が好きだけど他の誰かに告られて迫られてなびきそうになる自分に悩む南沢先輩に苦しめられるまだまだ不安定な倉間



2011/07/12 18:58
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