「つるぎー」
 土手の上から河川敷を眺めていると、いつもちょこちょこうるさいヤツが背後から走ってきた。どうせくだらないことだろうと無視を決め込んでいると、ソイツが背後で、何度か足踏みをするのがわかった。
「ねぇほら早く!! こっち向いてよ!! 溶けちゃうからっ!」
「はぁ?」
 思わず振り返ると、あまり値のはらなそうな、水色の棒アイスが差し出された。
「……なんだよ」
「何って、アイスだよ?」
「なんで」
「ん? いや、暑いから」
 松風はにこにこ笑って、「早く早く」なんていいながら、棒アイスを押しつけようとする。別に、腹も減ってねぇし、喉も渇いてねぇ。
「っせぇな。いらねぇよ」
「え〜、食べてよ! ハイ!!」
 アイスが服につきかねん勢いで押しつけられ、渋々それを受け取った。アイスが溶けて、持ち手の部分が僅かにベタベタしてる気がする。ありがた迷惑だ。
 松風が、左手に持っているもう一本のアイスにかじりついた。「冷たい」とか「甘い」とか、ガキみたいに一々感想を口にする。それからこっちを見て、「早く食べないと溶けちゃうよ」なんて言った。
 現に、おれの持つそれはポタポタと、熱いコンクリートに染みをつくっている。
「剣城ほら! 溶けてる溶けてる!!」
 ガキみたいに叫ぶ松風は、いつの間にやら自分の分を食べ終えたらしい。アイスの棒を口にくわえていた。
 松風が、くわえていたアイスの棒をゴミ箱に投げる。棒は小気味よい放物線を描いてゴミ箱に吸い込まれていった。
「じゃあ、おれ、下で練習してるから!」
 松風はまた笑った。夏の日差しよりずっと暑苦しい、そして、眩しい笑顔だ。
 松風は実に軽い足取りで、階段を降りていく。
 バカの一つ覚えのように、再びボールを追っかけ始めるバカを見下ろしながら、いい加減ドロドロなアイスを口に含む。
 甘ったるいソーダの味が、口の中に広がった。




end












この天馬下心あんだろって思った人は脳内えっちです



2011/07/11 21:48
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