「お前は吸血鬼にでもなるつもりか」
 新しく生まれた傷をさすりさすりそう問いかければ、ワイシャツを羽織っただけの姿の不動が気怠げに振り向いた。
「……痛いんだが」
「今に始まったことじゃねぇだろ」
 不動はそう一言返した後、まるで興味がないと言うように、ツンと前に向いた。
 セックスをするとき、いつも不動はおれの首筋に噛みついた。それはいつも軽い出血を伴うもので、最初の頃は痛みについ動きを止めたものだ。だが、いつしかそれにも慣れ(決してマゾヒストというわけではない)、その行為がもはや不動にとって癖のようなものなのだと理解できるようになった。まぁ、だが、痛いものは痛い。
「鬼道は、じゃあなに。やめて欲しいの」
「そうとまでは言わない。ただ、一度につける傷は一つまでにしてくれ」
「えー…、いやだ」
 不動はまたこちらを振り向いて、まるでいたずらをした子供のように、楽しそうに笑った。
 最近一度につけられる噛み痕が増えてきた。今も首筋に添えた右手のひらの下では、新しい傷がじくじくと血を流しながら疼いている。
「痛いのきらいか?」
「好きなわけあるか」
「でも、きらいじゃないだろ」
「……この程度でお前の気が済むなら」
「へぇ」
 不動は笑うのをやめて、こちらに寄ってきた。ゆっくりゆっくり、互いの鼻先が触れあうまでくらいまで近寄ると、不動はピタリと動きを止めた。不動の肩からするりとワイシャツが滑り落ちる。そのせいで、さっきまでと同じく、互いに一糸纏わぬ姿になる。
「キス」
 不動が一言発する。おれはまるで王女に仕える従者のようにその命令に応えてやった。
 ぬるりとした舌がおれの唇をねっとりと撫でる。拒絶することも、受け入れることもせず、好きなようにさせていると、不動の白い歯が器用におれの下唇を捕らえて、ガリリッと噛んだ。
「んッ…!!」
「あーぁ、ははは」
 噛まれたそこがジンジンと熱を持つ。
 不動は笑いながら、きっと血の滲んでるであろうそこをペロリと舐めた。
「おれ」
 不動が小首を傾げながら、スッと目を細めた。その仕草が猫みたいで可愛いなんて、なかなかおれも末期だ。
「おれさぁ、鬼道の血、すきなんだよなぁ」
 ついでに言うなら、不動も末期だ。正常な人間で、こんなセリフが似合うヤツなんていない。
「やっぱりお前、吸血鬼になるんだろ」
「……鬼道専用のならいーよ」
 いまだに首にあてたままの右手をそっと外すと、確かに赤い血がそこについている。下唇からじわじわ染みる赤からは、鉄の味しかしなかった。












ぶっちゃけ恥ずかしかった(笑



2011/10/03 22:28
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