×寄りの+
夏の暮れ。橙色の光が照る雑木林の小脇の道を、2人はゆっくりとした歩調で歩いていく。
右斜め後ろを歩く不動の影法師を横目に眺めながら、鬼道は雑木林の奏でる心地よい葉擦れの音と、蜩の声に耳を澄ました。横から差す鮮やかな橙色と、蜩の声と、涼しいそよ風が、夏の終わりと微かに香る秋の始まりを告げている。
背後を同じ歩幅で歩く不動が何を考えているかなんて、とんと見当もつかないが、どこか懐かしくもどこか切ないその場の空気に、何時までも揺蕩っていたいと鬼道は思った。
どこまでも続くようで、あまり長くない小道の終わりが近づく頃、鬼道がふと足を止める。
自分と一緒に進んでいた不動の影が、ピタリと止まったからだ。振り向くと、不動がしゃがみこんで雑木林の草むらに右腕を伸ばしていた。
鬼道が歩み寄ると、不動がゆっくりと腕を引く。その手のひらの上には、小さく輝く黄金色の、蝉の抜け殻が乗っていた。
「鬼道、コレ知ってるか?」
不動は手のひらの上の抜け殻をぼんやり眺めながら、隣に立つ鬼道に聞いた。
知ってるも何も。まだ幼かった頃に洋服にくっつけたりして遊んだ。小さな子供の大きな勲章。誰が先に見つけられるか、なんて競争もした。
あぁ懐かしい。こんなに長いこと忘れていた思い出が、こんな道端に落ちているなんて知らなかった。
鬼道が「蝉の抜け殻だろう」と答えると、右手の上のそれを左手で摘んだ不動が「懐かしい」と呟いた。
今彼は何を思っているのか。先程の鬼道と同じように、遠い日を思い出しているのだろうか……。
きっと、そうなのだろう。微かに細められたその目は、優しい色を湛えていた。
不動がなにか表情を面に出すのは案外珍しいものだ。だから、鬼道は黙って彼の脇にずっと立っていた。
夕日が少しずつ傾いていく。夏ももう終わりだ。
しばらくして、不動が抜け殻を草むらの中に戻した。
鬼道が「持ち帰らないのか?」と聞くと、不動は少し顔をしかめて「んなガキじゃねぇよ」と返す。それもそうだと思った。
不動が立ち上がるが、彼の影法師は薄くなって見づらい。日が暮れた証拠だ。
薄闇の降りた空は紫色に表情を変えている。
胸に響く蜩の声が一層物悲しく聞こえた。
end
曖昧でギリギリな関係の鬼道と不動かわいくないすか?
2011/09/07 23:55
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